へなちょこあかりものがたり

その15 「お買い物(後編)」








 と、いうわけで。
 ちょっとおめかしして、今日はお出かけ。
 郊外にできた大型ショッピングモールでお買い物。

「はわわー、大きいお店ですぅ……」
「ま、そうだな。駅前の商店街にはないからな」

 マルチちゃんは大きな目をさらに丸くして、モールの建物をじっと見つめて。

「ね、浩之ちゃん、何を買うの?」
「あー、ま、色々とな。お前が家で住むために必要なもの、とかな」
「あ」
「あ、じゃねえ」

 ぺしっ、と浩之ちゃんの大きな掌が私の頭を直撃してきた。

「あ……えへへ」
「ったく、幸せな奴だな」
「うん……」

 やがて、茫然としていたマルチちゃんが浩之ちゃんの袖を引っ張って。

「はうはう、早く入るのですぅ、何かが待っているのですぅ!」
「おう。ほら、あかり。早く来いよ」
「うん」

 マルチちゃんと、マルチちゃんに手を引かれた浩之ちゃんと、浩之ちゃんの
後をついていく私。三人でモールの入り口をくぐり、中に入る。

「今日は特設展示場で、フリーマーケットをやっているらしいぜ」
「ふりーまーけっと、ですかぁ?」
「おう。あー、つまり、不要品を売ったり買ったりするところだ」
「不要品……ですかぁ……」

 マルチちゃん、なんだか寂しそう。
 まさか、マルチちゃんを売り買いしたりするかと思ってるのかな。


 奴隷売買みたいに……。

「HMX−13型、程度良  620万5千円」
「HMX−12型、新品同様 248万6千円」
「HMX−12型、展示品  320万  円」
「HMX−13型、完動品  425万  円」

 ずらっ、と並んだ、マルチちゃんやセリオちゃん。
 みんな、白のレオタードみたいな服を着て、目を閉じて。
 新しいお家に行く日を待っているみたい。

 そんな中に、一人だけ。

「HMX−12型、未使用、調教済み……1200万円(応相談)」

 って値札がついていて。

 マルチちゃんって、確か、400万円ぐらいだったって言ってたのに。
 未使用、調教済み……?
 調教、って、やっぱり、そういうことなのかな……?

 前の御主人様に、可愛がってもらったのかな……?

 きゅっ、と胸の奥が熱くなる。

 浩之ちゃんじゃないのに、それでも、なんだか。
 きっと、このマルチちゃん、色々な方法で躾けられたんだろうな、って。
 どきっ、と、心臓が大きく脈打った。


「ああっ……お、お許しくださいですぅっ」
「です、はいらないんだよ、マルチちゃん」

 にっこりと笑いながら、鞭を鋭く振り下ろす私。
 鞭はマルチちゃんの肌に弾け、赤い線を刻む。

「ひあっ、い、痛いですぅっ」
「オシオキなんだから当然だよ」

 もう一度、鞭が空気を切り裂いて轟く。
 マルチちゃんの白い肌に、もう何条目か判らない、真っ赤な線が浮かぶ。

「ああっ、お、お許しくださいっ、御主人様っ」
「うふふ……最初からそう言えばいいんだよ、マルチちゃん」

 私は鞭を手の中に収め、地面にうずくまっているマルチちゃんに歩み寄る。
私の手が、既につやを失っているマルチちゃんの髪の毛に触れる。
 びくん、とマルチちゃんの身体が跳ねる。

「ふふ……恐がらなくていいからね。私の言うことをちゃんと聞いていれば、
 何にも痛いことなんかしないから……」
「あ……んふぅ……」

 なでなで。
 なでなで。

 マルチちゃんの頭を、手で髪の毛をすくようにして撫でながら。
 私は、そっとその傷だらけになっている身体に唇を這わせていく。

「ひぁっ……ああっ、き、気持ちいいですぅっ、ごしゅじんさまぁ」

 小鳥がついばむような軽いキスの雨が、マルチちゃんの身体中に余す所なく
降り注いでいって。
 私は、そうしながら、マルチちゃんを地面に押し倒して、その足の間に頭を。
そして、私の足の間にマルチちゃんの頭が来るような姿勢を取った。

「んぷ……ちゅるっ……」
「んはっ……そ、そう……上手だよ、マルチちゃん……」

 びくっ、びくん。
 私の身体が、まるで私のものではないかのように痙攣する。
 私もまた、狂おしいまでにマルチちゃんの身体を責めたてていく。

「ああっ、もう、もう、ダメですっ、イっちゃいますぅっ!」

 びくんびくん、と、マルチちゃんの身体が跳ねる。
 そして、やがて、マルチちゃんは糸の切れた操り人形のようにぐったりして
ベッドルームの床に倒れ込んだ。

「……ふぅ……」

 そのマルチちゃんを見て、ため息を一つ。

「もう、私の教えられることはない、かな……」

 視線の先には、ぐったりと倒れ込んだままのマルチちゃんの姿。
 私は、柔らかな微笑みを投げかけながら。

「……そろそろ、出荷の時期だよね。あ、フリーマーケットがあるんだっけ」

 え? しゅ、出荷!? 私、マルチちゃんを出荷しちゃうの!?
 混乱している私の意識を置き去りに、私はチラシを取り出して。

「ふーん、5月6日の土曜日かぁ。うん、じゃ、大丈夫ね」

 いつの間にか再起動していたマルチちゃんが、寂しそうな目で私を見ていて。

「え……」
「大丈夫だよ、マルチちゃん。きっと、いい人が買ってくれるから」
「……ぞ、ぞんなぁ……ぐじゅっ、私のこと、もう、要らないんですかぁ……」

 えっ、そ、そんなことないよぉ!


「マルチちゃんは不要品なんかじゃないからねっ!」
「お、おう、当たり前だ。大事な家族だからな」
「え……あっ……ありがとうございますぅ」

 あ……また、やっちゃった。
 浩之ちゃんも驚いて……ちょっと呆れて、る。

「でも……あの、見てみたいのですぅ」
「そうか。よし、あかり。買い物もかねて、フリマ覗くぞ」
「うんっ」

 それから、3人で色々と買い物をして。
 全部新品で買うのに比べて、半分以下の値段で揃ったんだよ。

「服さんたち、なんだかうれしそうですぅ」
「うふふ、そうだね」

 マルチちゃんも嬉しそうで。
 私もなんだか嬉しくなって。

「ね、浩之ちゃんもそう思わない?」
「ん? ……まあな」

 うふふっ、浩之ちゃんったら、恥ずかしそうに鼻の先を掻いてる。
 そんな姿を見ながら笑ってると、つかつかっ、と近づいてきて。

「また変なこと考えてるだろ」

 ぺしっ。

「あ……えへへ」

 確かに変なことかもしれないけれど。
 でも、浩之ちゃんも考えてたでしょ? おあいこだよね。




<つづく>
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