へなちょこセリオものがたり

その102「泥を塗られて」








「……何だこりゃ」

 その日家に帰り着くと。
 玄関先が、泥だらけになっていた。

「お〜いっ! マルチ、セリオ〜」

「「は〜いっ」」

 びちゃびちゃびちゃ……。

「うをぅ」

 お前達、どうして家の中泥浸しにしやがるっ!?

「お帰りなさい、浩之さんっ」

 びちゃちゃちゃ……すかっ。

「あうあう、どーして避けちゃうんですかぁ?」

 可愛い顔中泥だらけにしながら、マルチがいつものように突っ込んで来たが。
 半ば嫌がらせに近いそのタックルを、俺は何なくひらりと避ける。

「その薄い胸に聞いてみやがれ」

「はぅっ!?」

 ずーん……。

 うむ、マルチの沈黙を確認。
 さて……セリオに状況を報告してもらおうか。

「セリオ、こりゃ一体どういう真似だ?」

 ああもう、そこら中に足跡が……。
 まさかこいつら、布団や絨毯までどろどろにしたんじゃ?

「私達の情操教育の一環として、日本の心『稲作』を……」

「家の中でそんなもん学ぶなぁ!」

「ですが、『心』の成長の為に……」

「田植えは田んぼでやれっ! 染物は紺屋で作るもんだっ!」

 ったく……庭を水田化するってーならまだしも、家の中でかよ。
 つーか、どこを水田にしやがったんだろ。

「ああ、もう……スリッパが役に立たねぇよ」

 しょうがねぇ、裸足で行くか。

「……是非こちらをどうぞ」

 ささっ。

「カンジキなど要らぬ」

 床板が見えてるんだから、足が埋まったりはしないっつーの。
 っていうかソレ、どこから仕入れて来たんだよ。






「あー……なるほどぉ……」

 俺が風呂場に入ると、すでにバスタブには湯が張られていたりするのだが。

「ご心配なく……お風呂場と玄関しか移動してませんから、後片付けもすぐに
済みますので」

 大きなプラ製のたらいに、湯気の立つ黒い色した泥が満たされていた。

「浩之さんっ、私『田植え』って初めてでしたぁ」

 ……そりゃ、大抵の人間は体験しないまま一生を終えるだろうよ。

「ほらほら、こんな感じでっ♪」

 言いながらたらいに手を突っ込み、田植えの仕草をして見せるマルチ。
 足は伸ばしたままで前屈してるから……スカートの中身丸見え。

 ……のハズだったけど。

「パンツまで泥だらけにするなぁ!」

 俺の楽しみを奪いやがって(爆)。

「……『あやや、しまったですぅ』」

「セリオ、抑揚なしで言うな……あ?」

 背後から聞こえた、セリオの声。
 マルチの真似をして言ったらしく、ちょっと舌足らずっぽく。

 滅多にないことだけに、思わず振り向いた俺が見たものは。

「浩之さん……そういうわけですので、お風呂に入りたく存じます」

「…………」

 ぷぱ。

「せっ、セリオぉ……服はどうしたっ?」

「泥だらけになってしまいましたので」

 っていうか、全身泥パック状態。
 『なった』つーか『した』んだろ、おい?

 うをぅ……何つーかこう、妙にえっちだなをい。

「あ、また泥遊びですねっ」

 ま、また!?

「ええ……今度は浩之さんもいらっしゃいますしネ」

 にっこり。

「お、おい……まさか……」

「「えい」」

 どん。

「うわわわわっ!?」

 ……べしゃ。

 2人に突き倒され、俺は泥たらいにダイビング。

「ぶへっ! 生温いぃぃぃっ!」

「嫌ですね……その為に、わざわざ用意したのですから」

「たっ、田植えはっ!?」

 顔から泥を何とか拭い、やっと視界を確保した俺。
 そしてぬろぬろした感触の中から、何とか立ち上がろうとしたけど。

「た――――っ☆」

 べしゃっ。

「だぁぁぁっ!?」

「……『た――――っ☆』」

 ととと……ぽちゃん。

「浩之さんっ、コレって気持ちいいんですよっ!」

「温泥効果により、身体の芯から温まったりお肌がつるつる・すべすべになる
とかならないとか」

 ぬるぬめぇ……っ。

「あ……ああっ……不思議な感触っ……!」

「あらあら、服が泥で汚れてしまいましたネ」

 俺が感じたことのない、不思議な感覚に苛まされていると。
 マルチやセリオは、いそいそと俺の服を剥きにかかって。

「ああっ……田植えって、こんなに素敵なものだったのですネ」

「あのさぁ……つまんないこと聞くけど」

「はい?」

 何時の間にかマルチさえも全裸に泥パック状態になっていて。
 そんな2人が俺にまとわり付いて蠢く度に、そりゃーもう大変さ。

「誰から聞いた?」

「……浩之さんのお部屋の本デス」

 あー……えーっと、田植え関連なんかはなかったと思うが……。

「あと、細部考証の為に来栖川データ・バンクを少々」

「それだっっ!!」

「ひゃぅっ!?」

 あ。
 叫んで身体を動かした際に、マルチの変なトコがこすれてしまったらしい。 

「……世間一般では、こーいうのは『泥レス』と呼んで珍重されるのだ」

「なるほど……」

 俺は、急に動かなくなってしまったマルチを抱きしめながら。

「この泥の感触がなぁ……」

 いつもしてやってるように、マルチの敏感なトコを軽く責め立ててみると。

「あああああっ、あ――――っ♪」

「な? 妙にイイ感じだろ?」

 ずるり……べしゃっ。

 俺の腕の中から、力なく崩れ落ちたマルチ。
 その姿を、セリオは頬を紅潮させて見つめていたりする。

「『泥レス』……勉強になりマス」

 ごくん、と生唾を飲み込む音……セリオ、お前なぁ(ニヤリ)。

「でっ、では……お手合わせ願います〜♪」

 あ。
 何だか妙に期待してるぞ、こいつ。

「っしゃ! 来ぉ――――いっ!」












 さすがに3ラウンドくらいずつ相手したら、疲れた。

 さ……んじゃ次は、泥を洗い流しつつ……。
 覚悟しろよ、お前達。
 闘いは終わらないのだ。






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