へなちょこセリオものがたり

その109「無理なんだいっ」








 夕方、居間に入るとセリオが窓際にいた。
 ただぼーっと、夕陽を眺めていうようで……。

「…………」

 何やってんだろ……何か声かけにくいよなぁ。
 ……はっ!? もしかして、何かいいもんでも見えるのかっ?
 或いは、見てはいけないモノが見えてしまっているとか……。

 アレだ、猫とかがいきなりびくっと人の頭の横を見つめるように。
 自分を見つめてるのかと思ったら、微妙に視線がずれてるんだよなぁ。

「はぁっ……」

 彼女は暮れなずむ光の中、溜め息を1つ。
 俺はちょっと、どきっとした。

 やっぱりセリオって、綺麗だよなぁ。
 こうして見てると、何だかずーっとこのままでいたい気分だ。

 っていうか、ちょっとだけ……眺めさせてもらおうっと。






 数分後、突然我に帰る俺。

 えーと。
 まぁカ○ピス飲みに来ただけだし、そろーっと……。

 ぎしっっ。

 あ。

「……あら、浩之さん?」

「お、おう。何を黄昏てたんだ?」

 ちと、不自然。
 というか、俺が居間に足を踏み入れる前から気付いていたかもしれないが。

「ええ……実は、少し悩みがございまして」

「ほほう、悩みとな?」

 それは放っておけぬ。
 俺に出来ることなら力になろう、とか言うのも男の甲斐性だ。

「俺でよかったら、聞いてやるぜ」

「ええ……ありがとうございマス」

 俺が傍に歩いて行くと。
 セリオは俺の手を取り、小さく息を吸う。

 俺を見つめる彼女の瞳……少し悲しそうで、俺に何かを期待しているようで。

 ……もしかして、俺のことで悩んでたのか?
 何だよ……俺、お前をそんなに悩ませるような真似でもしたか?

「あの……」

 くるくると、細い指を柔らかく絡められて。
 そんな素振りに、またもどきっとする俺。

「お、おう」

「……一筆書きが、出来ないのデス」

「……はぁ?」

 ひとふでがきぃ? 

「このような図柄なのですが……」

 セリオは背後からメモ帳とペンを取り出し、さらさらと図を描く。
 それは、4角形に対角線が2本引かれたものだった。

「何だ……てっきり俺、もっと別のことで悩んでたのかと……」

「ふふっ、ずーっと私に見とれてましたものネ」

 くすっ。

「……何だよ、気付いてたんなら……」

「あら、本当でしたか」

 ……ちっ、カマかけだったか。
 つーか今までの色んな素振りは何だったんだよぅ。

「まぁ……俺に任せろ。こんな一筆書き、すぐに正解を見付けてやるぜっ」

「それでは私は、お夕飯の支度を……」

「おう。夕飯前に片付けてやるぜっ!」

「お願いしマス……それが気になって、夜も8時間しか眠れません」

 それでいいんだ。
 っていうかお前ら、時間なんかあんまし関係ないくせに。

 そういや、最近そんなにゆっくり眠った覚えがないぞ。
 ……毎晩頑張ってるからなぁ(爆)。

「解いていただけたら、お礼はもう何なりと……」

 ぬぅ、期待させるなよぅ(えへへ)。

「頑張るぜっ」

「それでは」

 とたたたた……。






「さぁて……さくっと解決してやるかぁ」

 ここですぱっと問題を解けば、セリオの俺を見る目も変わるかもしれない。
 『浩之さん、惚れ直しましたっ!』とか言って抱き着かれたりした日にはっ。

「っしゃ! やる気出て来たぜっ!」

 うらうらっ、こんなのはこーしてこーしてこーっ……って、あれ……?






「あの、セリオさぁん」

「はい? 何でしょう」

「さっきから浩之さんがやっているアレ、確か……」

「しっ! 聞こえてしまうではないですか」

「だ、だってぇ……なでなでのすりすりのふにふにーってして欲しいんですぅ」

 わにわにわにわにわにっ。

「な、謎の踊りはわかりましたから……もう少しだけ我慢してくださいネ」

「はぁい……」






「くそっ! 何がどーしても駄目だぁ!」

 畜生、折角セリオ公認であーんなコトやこーんなコトが出来るってのにっ!

「浩之さん、ご飯の用意が出来ましたが」

「おおっ!? ちょ、ちょっと待ってくれ。すぐに……」

 あと1本、たった1本だけなんだから……。

「……実はソレ、不可能なのデス」

「……ああ?」

「一筆書きは無理なのデス。ですから、ご飯が冷めないうちに……」

 ……ああ。

「なるほど、また謀られたのか」

「たば……そ、そんな言い方はないかと……」

「何が違う」

 くそっ、俺としたことが気付かなかったぜ。

「浩之さーんっ、早くご飯食べさせてくださぁいっ!」

 マルチがスプーン片手に、俺を呼ぶ。
 『食べてください』じゃないのは……食べさせっこするからだ(爆)。

「おう、すぐ行くぜ」

 うむ、この案件に関しては後で処理することにしよう。

「……セリオ」

「は、はいっ」

「明日の君は紫の薔薇の人。さて何グラム?」

「……はい?」

「正解がわかったら、今日のことは許してやる。ま、飯食ってからゆっくりと
考えることだな」

 ……さぁて、マルチとご飯ご飯。

「浩之さんっ、早く早くですーっ☆」

「はいはい」

「あ……え……?」






 3時間後。
 セリオが泣きながら詫びを入れに来た。






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