へなちょこセリオものがたり

その113「H.I.P.」








「浩之さん、ちょっとお話が」

「ん?」

 ちょっと飲み物でも、と階下へ降りると。
 セリオが後ろ手に何か隠しながら、俺を呼ぶ。

「何だよ……何か企んでるなぁ?」

 にこにこしてるから、痛い目に遭う心配はなさそうだが。

「いえいえ、そんな……まぁ立ち話も何ですから、お座りください」

 ささっ。

 右手を差し出し、俺にソファーを示す。
 でも、左手は後ろに隠したまま。

「……おう」

 セリオを警戒しながら、ソファーにぼっすんと座る俺。
 と、その時。

 ぶぶぅ〜っ。

「……あ?」

「おやおや……浩之さんたら、何てお下品な……」

 口元に両手を当て、いやいやをする彼女。

「…………」

 俺は無言のまま、クッションの下に手を伸ばし。

 ぴろーん……。

「おい……何だこりゃ」

 一見潰れたビニール風船、でもぴこっと空気吹き込み口が飛び出していて。
 そう、紛れもなくブーブークッションだ。

「ふふふ、私の目は誤魔化せませんよ……そんなものを仕込まれていたように
見せかけようとしても、この私は騙されません」

 そりゃ、お前が張本人だから当然だろ。
 つーか後ろに隠した手はブラフだったのかい。

「…………」

 どうしてくれようか。
 いっそ、本物をセリオの目前で……いやいや、お下劣極まるから、紳士たる
俺にはそんなこと出来ない(爆)。

「…………」

「あの、浩之さん……?」

 ふーっ、ふーっ……。

 俺は何も言わず、そいつに再び空気を吹き入れて。
 元あったクッションの下に元通りセットし、そのクッションの隣に座る。

 ぼすっ。

「……さぁ! ゆっくり戯れようじゃないか、ん?」

 ぽんぽん。

 クッションを軽く叩き、セリオを促す俺。

「うっ……」

「嫌か? 嫌なら、今日はもうセリオには触ってやんなーい」

 ぷいっ。

「そ、そんなぁ……」

「俺と戯れるのが嫌だから、ここに座らないんだろ?」

 ニヤリ。

「あぅ……」

 断れまい。
 わかっていようとも、断れまい。

「さぁさぁさぁさぁさぁ」

 そう、俺は確信犯。

「ううっ……はい……」

 観念したのか、セリオはゆっくりと俺の隣に座り。
 程なく響く、何とも情けない音。

 ぷぅ〜っ……。

「うわ、セリオってばお下劣ーぅ」

「ううっ……」

 真っ赤な顔で、俯いて。
 よし、もう少しだ(←何が?)。

「セリオはお下品だなぁ……ん? そう思うだろ」

 つんつんっ。

「そ、そんなっ……」

 頬を突付かれ、余計に赤くなり。

「……ひどいデス」

 何を言うか、こいつめ。

「何と言おうと、セリオが恥ずかしい音を鳴らした事実は変わらないぞ」

「で……ですが、今のは……」

 うむ、セリオ油断しまくり。

「悪いのはこのお尻かっ? このお尻なのかぁ!?」

 さわさわっ。

「ひゃうっ!?」

「悪いことしてないなら平気だよな」

「そんな、中世の魔女狩りのような……」

「ええい、黙れ黙れ」

 さわさわさわっ。

 最早何人たりとも止めることあたわず(爆)。

「んぅっ……」

「怪しい怪しい怪しいっ! これはもっと詳しく調べる必要があるなっ!」

 のさっ。

「あ……♪」






 というわけで。
 とりあえず『不審な点』を全て、虱潰しに『調査』したのだった、まる。






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