へなちょこセリオものがたり

その114「毒食わば皿まで」








「お待ちどう様でした、浩之さん」

 ことん。

「おおっ、待ってましたぁ」

 今日の晩飯はシチューだ。
 山と盛られたパンの皿と共に、銀色のスープ皿が運ばれて来て。

 んー、いい匂いだ。正に食欲をそそる香りってやつだな。

「ん? 綺麗な皿だな」

 金属性の光沢が電灯の光を反射して、俺の目を射る。

「ええ、純銀製デス」

 むぉ、そんなもん買う金がどこにあったんだよ。

「今日の為に、お借りして参りました」

 あ、安心。

「じゃ、早速いただきま……」

 揚々とスプーンを握った俺だったが。
 銀皿のスープ水面付近が、変な色に変色していることに気が付いた。

「お、おい……これ」

 この辺この辺。

「ほぐ?」

 シチューはそっちのけ、パンを口一杯に放り込んでるマルチが反応。
 絶対何も考えてないだろ、お前。

「いやいや、今日の飯はセリオが作ったんだろ?」

「ええ」

 ぢゅるぢゅるぢゅるぅ。

「うを……」

 お上品に食わんか、お上品に。
 っていうか……そうか、お前らは別に何食っても平気なんだもんな。

「あれれ? 浩之さん、食べないんですかぁ? 美味しいですよー♪」

 ちゅるちゅると、可愛い音を立ててスプーンを操るマルチ。
 うんうん、逆手持ちさえ直せばばっちりだぞ。

「いや、何ていうかさ」

 シチューに何入れやがったんだよ、セリオ。
 わざわざ『銀製』だって宣言しやがるし。

「……浩之さんは、口移しでないと食欲が沸かないそうで」

 じゅるっ。

 彼女はスープ皿をあおり、一気に口の中をシチューで満たし。

「んー」

 うをう。
 いつもなら喜んで……だが、今日ばかりは勘弁してくれい。
 つーかセリオ、しばらくキスもしたくないぞ俺は。

「俺が悪かった俺が悪かったもうエロ本買わないから」

「…………」

 ごっくん。

「……わかればよろしいのデス」

 口元をふきふき。
 やっぱり、俺の部屋でエロ本見付けたのが原因か。
 つーかマルチもグルなんだろうな……2人で共謀してるに違いない。

「……外行って食ってくる……」

「ほえ?」

「あらあら、ですから私が口移しで……」

 じゅるるっ。

「ええい、断る」

 こーいうのも暗殺と言うのだろうか。
 つーか問答無用で逃げておこう。

「まぁまぁ、そう言わずに」

 だきっ。

「うわわわわ〜」

 んちゅぅ〜……。

「……ぷはっ、お味はいかがですか?」

「あーっ、私もするんですーぅ♪」

「……いつ頃効いてくるんだ? これは」

 とか言ってる間にも効果が出るのかもしれないが。

「はい? 純然たるシチューに、何をお求めなのですか?」

「…………」

 くそう。
 また『おいシナリオ通りだいいのかふっ問題ない』状態なわけだ。

「謀ったな」

「いえ……浩之さんが勝手に誤解をして、勝手に思い込んでいたまでのこと。
私には何も責任はございません」

 嘘こけ。

「何でわざわざ銀の食器用意したんだよ?」

「たまには気分を変えてみようかと」

 言いつつ、シチュー皿を手に取り。

 ついっ。

「あら……何故か偶然、お皿の縁に食紅が付着しておりました」

 3人分の皿全部に偶然かい。
 変色部分は食紅でカモフラージュしてたのか。

「……エロ本買いに行って来る」

 たたっ。

「ああっ! そんな、今までの苦労は一体っ!?」

 そこまで言って、どこが『俺が勝手に』なんだよ。
 ……と、セリオは気にせず居間を出ようとしたら。

 がしっ。

「ん?」

「んーふーふふーぅ♪」

 おっ、マルチ?
 お前も一緒にエロ本買いに行くか?
 夜中にならないと中身が見えない自販機なんて見たことがないだろう、今夜
見せてやるから一緒に獲物を選ぼうな(爆)。

「んーっ♪」

「んんっ!?」

 んちゅぅ〜……っ。

「……ぶほっ、予告くらいしてくれよ……」

 かといって、全部飲み干す俺も俺だが(爆)。

「お出かけするなら、ご飯を食べてからにしましょうよ」

 爛々と目を輝かせ、握ったスプーンも曲がれとばかりに。

「さぁさぁ、お代わりは沢山ありますからネ」

 どむっ。

 テーブルの上に、やたらでかい鍋を置き。
 中身をおたまでかき混ぜながら、マルチに何か合図して。

 こくこく。

「わかったのですー」

「何だよ」

 アイ・コンタクトなのか電波なのか。
 ともかくその後すぐにマルチが俺を取り押さえにかかり。

 わたわたっ。

「浩之さんっ、愛の為に愛の為にっ」

「おいおいおい」

 がたがた、どすん。

 俺が気を抜いていた為、あっさりと床に組み伏せられ。

「さぁっ、セリオさんっ!」

「はいはいはいはい」

 ……ちょっと待った、何だよそのでっかい漏斗。

 ……がぽ。

「たんとお食べくださいー」

「お代わりは沢山ありますからネ」












「……おえっぷ」

「浩之さん、お出かけしないんですかー?」

 のさっ。

「やっ、やめ……腹の上に乗るなあ」

 出る。
 出ちまう。
 何がって、中身が。

「美味しいからと、調子に乗って食べ過ぎるからですよ……」

 しれっと言うなよ。

「うふふっ、食後の添い寝なのです添い寝なのですーぅ♪」

「……ああっ! 食器の後片付けが残っておりました」

 残念だったな、そりゃ。
 つーか悔しいから嫌がらせしてやろうか、セリオに。

「さてマルチ、今日は時間限定なでなでデスマッチだ」

「ほええ?」

「俺が全力で、3分間なでる。その間声を出さなければお前の勝ち、何か一言
でも言ったら俺の勝ち」

 わきわき。

「マルチが声を出す前にセリオが戻って来たら、途中の選手交代も認めよう」

 自然と手が準備運動を始めてしまう。

「つまり……2人とも声を出さないでいれば、一晩中なでなでが続くわけだ」

「あっ……ああっ! 3分ですねっ!?」

 だだっ!

 それを見るなり、速攻スタートダッシュ決めたセリオ。
 甘いな……俺もマルチも、甘く見られたものだ。

「よっしゃ、スタート」

 なでなでなでなでなでなでなでなで。

「あふっ……とても気持ちいいのですぅ……♪」

「はい俺の勝ちぃ」

 がったん。

 キッチンに辿り着く前にコケるなよ、セリオ。






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