へなちょこセリオものがたり

その118「極めれば道」








「突然ですが、格闘技を始めようと思いマス」

 俺が居間で雑誌を読んでいると。
 突然傍に現れて、そんなことを言うセリオ。

「……お前、今だって何でも出来るじゃねぇか」

 サテライト・サービスでぽんぽんっとな。
 格闘技どころか、武器戦闘だってお手のものだろうよ。

「いえ、自力で『道』を極めてみたくなりました」

「ほほう」

 ふむ、向上心……とは少し違うかもしれないが、いいことである。
 ここは1つ、暖かい目で見守ることにしよう。

「いいんじゃないか、それ。応援するぜ」

 俺は持っていた本を閉じ、彼女ににっこり微笑んで見せ。

「ありがとうござ……」

 ぱふっ。

「馬鹿、ここはお礼言うトコじゃないっての」

 なでなで。






「で……何を始めたいんだ? やっぱり空手とか?」

「いえ……実は、もう既に決めてありマス」

 ぬう、決定事項だったのか。
 セリオにしては珍しく相談しに来たのかと思って、ちょっと嬉しかったのに。

「へぇ、何なんだ?」

「……マルチさんにお願いして、お庭に用具を揃えておいていただいてマス」

 マルチに……?
 つーか何時の間に。

「準備は万事オッケーってことか」

「ええ」

 巻き藁でも用意したんだろうか。
 あれなら、大抵の格闘技の練習に使えそうだしな。

「それでは最初の練習、是非浩之さんにも参加していただきたく……」

「おう、言われるまでもないぜ」

 愛するセリオがやる気になってるんだ、俺が参加しないでどうする。
 まだ何するのかわかんないから、続けるかどうかは別にしてナ(爆)。






 ちょろろろろ……かっこーんっ。

「……これ、何?」

「茶道デス」

「……格闘技は?」

 いや、そりゃ確かに『道』なんだけどさぁ。

「はい? 勿論格闘技ですが……?」

 ニヤリ。

「……はい?」

「さぁ浩之さんっ、茶杓をどうぞっ♪」

 たたたっ。

「……何じゃこりゃぁぁぁ!」

 マルチが嬉しそうに持って来たのは、俺の身長程もある茶杓。
 しっかり竹製な辺り、どうやって用意したのか謎だ。

「さて、それでは早速試合開始デス」

 早速すぎ。
 まだルールどころか、コレの使い方も聞いてないってのに。

 っていうか試合って何やねん。

「なっ……ちょっ……!?」

「れで〜、ふぁいっ!」

 舌足らずなマルチの合図。
 それと同時に、俺と同じ茶杓を持って突っ込んで来るセリオ。

「浩之さん、お覚悟っ!」

 ぶんっっ!

「まだ覚悟完了してねぇぇぇぇ!」

 まるで薙刀のような振り回しっぷり。
 武器戦闘……いや格闘に関してもだが、どう考えてもセリオには敵わないと
思うのだが。

 そう、『当方に迎撃の用意なし!』ってやつだ。
 ……ならば、奇襲するしかあるまいっ!

「マルチっ、あのお茶混ぜるやつっ! 出来れば小さいやつくれっ!」

「はいっ、どうぞです〜ぅ♪」

 何でお前だけ楽しそうやねん。

 ぽーいと投げ込まれた茶筅、セリオの攻撃を何とか避けつつキャッチして。
 ……普通の大きさのでよかった(爆)。

 さて……次は如何にして彼女の気を逸らすか、だが。
 『鼻毛が出てるわよ恥ずかしーい』とか『あらやだブラが透けていましてよ
おほほほほ』なんてやっても、あいつのことだから動じないに違いない。

 そんなんじゃ駄目だ……いっそ、ある程度かけ離れてる方が……!

「セリオっ、懐から俺のトランクスがハミ出てるぞっ!」

「えっ……そんな、まさかっ!?」

 一瞬止まる、セリオの動き。
 その隙を逃さず、抱き着くようにして彼女の動きを止める。

 ヤバ気な茶杓は、速攻で奪い取り。
 そのまま俺は身体を密着させ、セリオを羽交い締めにして。

「ああっ!?」

「ふぅ……危なかったぜぇ……」

 何気なく耳カバーを外して、直に息を耳に吹きかけたりして(爆)。

「あうあう、くりんちですぅ」

 クリンチありって、どんな茶道やねん。

「さて、そんじゃ」

 行くぞ茶筅。

「うりゃりゃりゃりゃっ」

 さかさかさかさかさかっ。

「あああああっ、耳に来ると思いましたのにっ」

 いきなり胸から攻め始めた俺、予想が外れたセリオは驚く程に悶え始めて。
 ……まぁ、いつもと順番違うしな(核爆)。

「馬鹿、こんな固いの使って耳が感じるもんかよ」

 竹だし。

 さかさかさかさか……。

「なっ、何だかもどかしくてっ……」

 そうかそうか。

「上と下、どっちがイイかな?」

「りょっ……うんっ」

 うむ、皆まで言うな。

 俺は空いてる片手を、セリオのスカートに這わせ……って。
 何故かごわごわとしていて、いつもとは違う触感。

「あれ?」

「あっ……途中で止めなっ……くださっ……」

 何だか妙な感触。
 不思議に思った俺は、とりあえず茶筅から生手(笑)に武器を換え。
 ふにふにでセリオを脱力させつつ、そろーっとスカートをたくし上げて。

「……ほ、本当に俺のトランクス履いてるッ!?」

「やっ……浩之さんの、えっち……♪(ぽ)」

 『ぽ』じゃねぇ、『ぽ』じゃっ!

「あやや、セリオさんですかぁ」

「『も』?」

 ……ってことは。
 えーと……。

 しまった、こんなことしてる場合じゃねぇっ!

「セリオ、今回はお前の負けってことでいいなっ!」

「はっ、はい……」

「マルチ、お前も負け。いいな」

「はーいーっ♪」

 だから何で嬉しそうなんだってば。
 理由なく負けにされてるってのに。

「お前らのトランクスは俺のだから、戦利品として奪還する……いいな?」

「そっ、それは……」

「はーいっ☆」

「ああっ、折角浩之さんの目を誤魔化したのにっ」

 どうしてそんなに(以下略)。
 ……俺、時々マルチがわからねぇ(爆)。

 つーかセリオ、言ってくれればいくらでも(核爆)。

「よし、んじゃ……」












 トランクス。
 アレはやっぱり、男の履物なわけだけど。
 男が履いてるの見ても、何ともイヤーンな感じだけど。

 ……女の子とは、とっても食べ合わせよかったぞ(爆)。






<……続きません>
<戻る>