へなちょこセリオものがたり

その119「あなたに」








「ん……何読んでるんだ、セリオ?」

 居間のテーブルに、ぶ厚くてでかい本を広げていて。
 何の本かは遠目でわからなかったが、ちょっと興味があった。

「あ、浩之さん……これはですね、密かに私が愛読している本デス」

「ほう」

「なかなかスペクタクルに富み、次の展開が予想出来ないところがファン達の
ハートをがっちりキャッチしていて……」

 ほほう、そんな本を愛読しているとは知らなかったぜ。
 面白そうだな、俺も少し読ませてもらおう。

「セリオ、俺にも見せてくれ」

「ええ」

 すたすたと、セリオの傍に歩いて行くと。
 ソファーの上で身をずらし、俺の座るトコを作ってくれる。

 ……隣に座れってか、こいつぅ。

「さて……」

 ぽすっ。

「どんな本なんだぁ?」

 隣で身体をすり寄せて来るセリオを、可愛く思いながら。
 つい、と俺が誌面に目をやると……小さな漢字と、数字の羅列。

「……電話帳ッ!?」

「ぷっ……くくくっ」

 必死で笑い堪えてやがんの。

「複雑な数字の組み合わせ、私の演算能力をもってしても全ての把握は不可能
ですネ」

 くそう、ニヤニヤしながら言うなよ。
 把握も何も、来栖川のデータベースに電話番号台帳くらいあるんだろうがよ。

「くそう」

「ふふふ、騙されました?」

「ああ」

 そりゃもう見事にナ。
 ええい、何て悔しい……。

「そんじゃ、邪魔したな」

 ここで笑われ続けてるのも情けないから、この場は退散しよう。
 くうう、気の利いた反撃の1つも出来ない自分が恨めしいぜ。

 すたすたすた……。

「あ……」






 部屋でぼーっと、セリオをやり込める方案を模索していたら。
 誰かがそっと、ドアの前に立つ気配。

 こんこんっ。

「あの、浩之さん……」

「んぁ? 入れよ」

 がちゃ……。

「さっ、先程はどうも……」

 小脇に1冊、本を抱えて。
 ……今度は何の本だってんだ。

「で、何か用か?」

「その、用と言うわけでもないのですが」

 ずいっと、抱えていた本を差し出して。

「先程のお詫びに、これを……」

 何気なく受け取ってみたけれど。
 表題は何もなく、でも結構厚い。

「……今度は何だ? 企業年鑑か何かか?」

 電話帳の方がまだ面白そうな気がするぞ。

「あっ、あのっ! 出来れば、こちらで一緒にっ」

 たたっとベッド脇まで行き、俺を手招きするセリオ。
 ……まぁ、いいけどさ。

「何なんだよぉ」

 促されるままに、ベッドの端に腰かける俺。
 セリオはベッドの上に乗り、端に座った俺の背後に回り。

「今度は、きっと楽しんでいただける本ですよ」

 だきっ。

「お前なぁ……そこまで言っておいて、『ネク○ノミコン』とか言ったら俺は
マジで怒るぞ」

「それは残念ながら、芹香さんがお借ししてくださいませんでした」

 持ってるのか、先輩。

「普通の本なんだな?」

「それは、読んでいただければ……」

 むぅ。
 耳元で囁かれたら、何とも弱いぞ俺。

 ってな感じで跳ね除けることも出来ないまま、表紙を開く俺。
 すると、セリオの手書きらしきタイトルが書かれていた。

「ええと……『セリオのひみつ日記・その2』って?」

「ええ……私のあんなコトやこんなコト、恐らく浩之さんの知らない秘密まで
……」

「おっ、おおおおおっ!?」

 俄然やる気、俺(爆)。
 一旦本を傍に置き、後ろにいたセリオを前の方に引っ張って。

「いっ、一緒に読もうぜっ!」

 あっと言う間に抱っこして。
 今度は、俺がセリオの耳元で囁く番。

「秘密ってことは、色んなコトが書いてあるんだな……?」

「は、はいっ……♪」

 彼女の肩口にあごを載せて。
 時々さりげなく、ほっぺをすりすりしてみたりして。

「へぇ……じゃぁ、早速……」 

「恥ずかしいですから、読み上げたりしないでくださいネ……?」

 どっ、どうしようかな(爆)。

「よしよし、任せろ」

 すりすり。

 この場合、何をどう任せるのかは俺に任せて欲しい(笑)。

「ええと……『第1条:外観検査』……?」

「ああっ、声に出さないでくださいっ」

 慌てて両手で顔を隠すセリオ。

「『チェック項目/見た目損傷がなければ問題なし』……って、一体何コレ?」

 チェックにしては、やたら適当に思えるが。

「は、はいっ……毎回のメンテナンス時の確認・検査項目をまとめたものなの
でして……」

 ……検査記録簿かい。

「きっ、期待させやがってぇぇぇぇぇ!!」

「はぅっ!? なっ、嘘は言ってませんでしたけどっ!?」

「嘘じゃねぇが、本当でもねぇぇぇ!!」

 ぽーいっ……ばささっ。

「ああっ、大事なメンテナンスノートをっ」

 慌てて拾いに行こうとするセリオ。
 でも、しっかりと俺に抱き止められていて。

「はっ、離してくださいっ」

「……振り解けばいいだろ? 大事なもんならさ」

 ぎゅう。

「そっ……そんな」

 セリオは、そっと俺の腕に手を添えて。

「……浩之さんより大事なものなんて、私には考えられません」

「……そっか」

「ええ」

 うむ。
 ならば。

「……つーわけで、俺がしっかり隅々まで検査してやるぅぅぅ!」

 がばぁっ!

「あああっ、何気にいい雰囲気だと思いましたのにっ♪」

 つーか嬉しそうだし、セリオ。

「これからイイ雰囲気になるんだよっ♪」












「なっ、何か異常はありましたでしょうか……?」

 俺の腕の中で、微笑みながらも……少し不安そうなセリオ。
 心配しなくてもいいぞ……お前がそんなこと聞くうちは、異常なんかないさ。

 ……矛盾してるな、俺。

「全くなし……今日もナイスだったぜ」

 異常どころか、日に日にイイ具合になって行くような気がするくらいだぜ。

「……メンテナンスノート、新しいものを用意しないといけませんネ」

「あ? 俺が放り投げたせいで、使えなくなったのか?」

 しまった、放り投げるってのはちょっとやり過ぎたか。
 来栖川電工なんだし……データ処理用に何かICとかそーいうの組み込んで
いても不思議じゃないし。

「いえ……『浩之さん用』のノートを」

 ちゅっ☆

「お……」

 俺……用の?

「そ、それって……」

「定期メンテだけでは不安なんですよ……こまめに浩之さんにもチェックして
いただければ、私達も安心ですから♪」

 ……おおう(爆)。
 なら、『俺チェック』とは別に記録付けて残すようにしよう。

 ……爛れた堕落行為の記録を残すのも一興だな(核爆)。

「じゃ、じゃあとりあえずまたチェックを……」

「あら……では、今度は『俺チェック』ですネ」

 わかってんじゃねぇか。
 つーかこっちは不定期なんだし、今やっても全く問題なし。

「マルチも呼ぶか?」

「そうですね……一緒にチェックしていただきたいデス」

 セリオは耳カバーに手を当て、数秒動きを止め。

「はい、間もなくいらっしゃるでしょう」

 ……電波で何をどう言ったのかが、非常に気になるが。

「じゃ……『俺チェック』、始めるぞ?」

「はい……♪」






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