へなちょこセリオものがたり

その120「もういいかい」








 ったく。
 何でこの歳になってまで、かくれんぼせにゃならんのだ。

「浩之さんっ、どこに隠れましょうかっ?」

「馬鹿、一緒に隠れてどうすんだよ」

 鬼はセリオなんだし、2人も1ヶ所に隠れてりゃすぐに見付かるっての。

「あ、私なら気にしないでくださいっ。浩之さんと一蓮托生ですからっ」

 気にするって。

「マルチ、お前の為を思って言ってるんだ。例え俺が見付かっても、お前だけ
は逃げ延びてくれ……」

「はぅっ……浩之さんのお気持ち、絶対に無駄にはしませんですー」

 ぱたたたた……。

 おおう、やけにあっさり退きやがるのな。






 かっきり100カウント。
 ±10カウントくらいで、セリオも動き出すことだろう。

「うっ……しっかし、暑いなぁ」

 おおっと、俺が押入れに隠れていることがバレてしまうぜ。
 ……しまった、これならマルチと一緒に隠れてた方が幸せだったかもしれん。

 こういう閉鎖空間で、ぴったり密着して。
 暑さでぼーっとしてくる頭、思考はだんだんぼやけて来て……。

 ……うむ、次は一緒に隠れることにしよう。






 とたっ、たたた……。

「…………」

 ぬ、セリオめ……遂にこの部屋に目を付けたか。

 がちゃっ。

「…………」

 必死で息を殺している俺。
 セリオはと言うと、ドアを開けたっきり……室内に入ってくる様子はない。

 ち――――っ……。

 ん、何の音だ?

「……浩之さん、見付けました」

 ぬ、ぬぅ……いきなり発見?
 いや、カマかけに違いない……ここで出て行ったら、奴の思うツボ。

「あらら……観念して出て来てくださいな。体育座りで膝を抱えているくせに」

 ……って、何かバレバレ?

「ちっ、何でわかったんだよ」

 からっと押入れを開け、やっと室内に出る俺。
 部屋の空気が、やけに涼しく感じられる。

「ふふふ……浩之さんがどこに隠れていようとも、『愛の狩猟者』たる私の前
には無駄なことデス」

 そう言ってセリオは、耳カバーに手を添えて。

 ちゅみ――――ん。

「さて、後はマルチさんだけですか……」

 って、おひ。

「ちょっと待った、セリオ! お前センサー使って探してたのかっ!?」

「はい? 勿論その通りですが」

 しれっと言うなっての。

「はい反則1つ。センサー禁止」

 俺は、ぱこっとセリオの耳センサーを外す。

「これは俺が預かっておく」

「ああっ、そんなご無体なっ」

「いいからスタートに戻れ。自力で鬼を務め上げたら、ちゃんと返してやる」

「ううっ……」

 何度も振り返りながら、言われた通りに居間に戻るセリオ。
 全く……ずるっこナシだっての。






「ぷぅ……」

 とか何とか、さっきと同じ押入れに隠れてる俺。
 セリオだって、まさか同じトコにいるとは思わないだろうし。

 つーかうちに隠れる場所なんてそうそうないし。

「そろそろかな……」

 いい加減、ぼーっとしてきた。
 見付けるなら早くしてくれ、でなければ俺が出て行くぞ(爆)。

 とたっ……とたたっ……。

 お、来た来た。

「浩之さんっ……一体、どこに……?」

 くすん、すんすん。

「ん……?」

 がちゃっ。

「浩之さん、いらっしゃったらお返事を……」

 誰がするか。
 ……そう、思いはしたけれど。

「……ぶぁっくしょい」

「あ……♪」

 我ながら、ざーとらしい。

 でも。
 さっきの、泣き声らしい声が気になって……。

 かららっ。

「浩之さん……?」

「……おう。見付かっちまったな」

 俺が押入れから出ようとすると……何を考えたか、セリオがそれを押し戻し。
 次いで、押入れの中に入って来る彼女。

「おっ、おいっ!?」

「ああっ……浩之さんっ……」

 ぎゅう。

「ちゃんと見付けただろ、ほら……かくれんぼはお終いだ」

「まだ、まだ見付けてません」

「あ?」

 今更何を言うか、お前は。

「私、センサーがないと……サテライト・サービスは勿論のこと、赤外線探知
や超音波探知、その他諸々の機能が使用不能になるんです……」

「あ……ああ、ほら。返すよ」

 俺は懐に大事に暖めていたセンサーを、セリオの方に差し出したが。

「ですから、このように薄暗い場所では確認に次ぐ確認をしなければ」

「だから返すってば」

 受け取れって。
 いや、その前に人の話を聞けって。

「とっても不安でした。一体、どこに浩之さんがいるのか……本当に浩之さん
がいるのかと……」

「ここにいるじゃん」

「ですから、その確認をば……♪」

 からから、ぴしゃん。

「……おい?」

「例え見えなくても、浩之さんのことは隅々まで存じていますから……」

 しゅる……しゅるるりっ。

「おいおいっ!? 何か服脱いでる音がするぞっ?」

「ええ。特殊センサー群と視覚センサーが使えない以上、残されたのは触覚・
味覚・聴覚・嗅覚だけ……何とも心細い限りでして」

 いや、だからそーいうコトを聞いてるんじゃなくってさ。

「ですから、持てる限りのセンシング・デバイスをフルに活用させていただき
マス……♪」

 聞けったら聞け、俺の話をよう。
 っていうかお前、本当に何も見えてないのかっ!?

 ならば、何故に迷いもせずにズボンのベルトに手が届くっ!?

「セリオ、お前……」

「はい?」

 かちゃちゃっ。

「……いや、何でもない」

 見えてても、見えてなくても関係ないさ。
 だって……な。

 だきっ。

「あら……」

「こうしてないと、お前がどこにいるのかわかんないからさ」

「……いつでも、お傍にいますよ」

 ぎゅ。












「ぷぃー……暑かったなぁ」

「あら、言ってくだされば冷え冷えモードに……」

 いやいや……それがまたイイのだよ。

 っていうか、お前は限度知らないからダメ。
 押入れの中で凍死したくないぞ。

「まぁいいさ」

 のさっとセリオの背中にのしかかる。
 耳カバーを付けてる最中だった彼女は、ちょっと困った声を上げ。

「あっ……浩之さん、そんな……」

「ん〜、もうカバー付けちゃうのかぁ」

 ぺろりっ。

「ひゃぅっ!? も、もう……♪」

「さぁて、今日の晩飯は何だろな?」

 恥ずかしそうに耳を押さえているセリオから離れ、ぐーっと伸びをする俺。

「あ、はい。今日はマルチさん……の……」

「……マルチ?」

 えーと、そういやマルチは……。

「「……ああっ!?」」












「うぐっ、ひぐひぐっ……」

「おーよしよし、セリオが見付けてくれなくて寂しかったなぁ」

「あうう、今度は絶対ご一緒に隠れるんですー」

 ぐすっ、くすん。

「……調子に乗って3回目を始めたのは、どなたでしたかしら」

「せ、セリオっ! お前だって、随分乗り気で」

「ほにゃ? 3回目ぇ……?」

 セリオの奴ぅ、1回目と2回目は自分から誘って来たくせにっ……!

「あああっ、何でもないっ! ほらほら、ご飯はセリオに任せて向こうで一緒
にごろごろしてよう! なっ!?」

「わーいっ、何だか誤魔化されている気もしますけどそれはそれとしてご一緒
させていただきたいと思う私なのですぅ〜♪」

 ぎく。

「さ……さぁさぁさぁ、今日は新技を用意してあるんだぜっ」

「はうはう、それは楽しみなのですう」

 ぱたたっ、だきっ☆

「し……新技っ!?」

「あ、腹減ったからセリオは早く準備してくれな」

「うぐっ」

 ……鬼だな、俺。
 そういえばセリオに見付けられてたし、な。






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