へなちょこセリオものがたり

その122「でかるちゃぁ」








「浩之さん、ただ今帰りました」

「おう、お帰り……って、何だその格好!?」

「ええ、主任からいただいて参りました」

 真っ赤なランドセル。
 見た目ランドセル。

 っていうかどう見てもランドセルだよ、こりゃ。

「な……何故にランドセル?」

「はい、戦闘支援用に作っていただいたのですけど」

 だからどうしてランドセルなんだって。

「例えば……浩之さん、あのボールを私に向かって投げていただけますか?」

「お、おう」

 玄関脇に置いてあったサッカーボールを指差して、何やら自信たっぷりに。
 俺は言われるままに、ボールを取って彼女に放り投げる。

「うりゃ」

 だが、彼女はぴくりとも避けようとはせず。
 そのままセリオにボールが当たるかと思った瞬間……それは、見えた。

 ばいん。

「……はい?」

 一瞬、セリオのお腹の辺りが光って。
 その光に弾かれて、ボールは俺の方にはね返って来た。

「ふふふ……新開発、『ピンポイント・バリア』なのデス」

 ばっ、バリアっ!?
 そんなっ、科学はそこまで進歩したというのかっ!?

「へぇ……すごいじゃん、セリオ」

 バリア発生装置が赤いランドセルな理由は置いといてな。
 こりゃすごいぜ、最強の座にまた1歩近付いたってわけだ。

「ふぅん……」

 何かやたら嬉しくなった俺。
 やっぱりバリアは男のロマンだよなぁ。

 とりあえずボールを拾って、バリアに弾かれた表面がどうにもなっていない
ことを確認する。
 いや、バリアの感触ってやつを味わってみたいじゃん。

「そぉれ、実験実験」

 セリオの胸の辺り、人差し指をつんつんと動かす俺。
 すると軽い音と共に、やっぱり弾かれる指。

 ぱいぱいん、ぱいんっ。

「おおっ、弾かれたっ」

 指の動きに合わせて、バリアと思しき光の円盤が移動して。
 終いにゃ両手でつんつんしてみたけど、数枚の円盤に全て阻まれてしまった。

「ぬぅ、完璧な守りだ」

「えっへん、新開発ですから」

 セリオも、結構嬉しそう。
 そりゃそうだろうな……これですっごく強くなったろうし、嬉しくない方が
変だぜ。

「うむ、誉めてつかわす」

 ……と、彼女の頭に手を伸ばした俺。
 そこで、あることに気が付いて。

「……あれ?」

「はい? どうかしましたか?」

 ちょっと頭を垂れて、なでられ覚悟完了だったセリオ。
 待てども俺がなで始めないので、痺れを切らしたように訊いて来て。

「……いや、これ……なでなで出来ないんじゃぁ……?」

「あ」

 もしかして、今の今まで気付きもしなかったのだろうか。

「ええい、何とかならないのかっ!?」

「お2人とも、どうかなされたんですかぁ?」

 ぽてぽてぽて……。

「おおっ、いいところに来たっ」

 やたら緊張感のない足音立てながら、マルチが俺にしがみ付いて来る。
 俺はそんな彼女の頭をなでながら、羨ましそうに指をくわえるセリオを指し
示して。

「奴のバリアを破れ、マルチっ!」

「ほっ、ほええ?」

「なるほど……マルチさんなら、このバリアを破ることも出来るでしょうね」

 おうさ、障害は排除するに限るぜっ!

 とりあえずさっきのボールをまた拾い、セリオに投げ付けてみせる俺。
 また変な音と共に、ボールが光の円盤に弾かれる。

「な? あの円盤を何とか潰してくれ」

「はい、ではコレで……」

 ごそごそと、スカートの下から何かを出そうとするマルチ。
 だけどセリオは、例のハンマーの柄が見えたところで青い顔になって。

「あの、ハンマーは止めてください……光になるのは嫌ですから」

「うにゅぅ、ならば『天国と地獄』くらいしか……」

 マルチは、残念そうにごそごそと柄をしまう。

「ええ、それでお願いします」






 廊下の端と端に分かれて向き合う2人。
 マルチは1つ深呼吸すると、勢いよく足元からホバー噴射を開始する。

 ……いや、あれはドコから出てるんだろ……?

「では、行っきまーすっ☆」

 ばしゅぅ!

「うっ……」

 さすがに引きつるセリオ。
 アレ、笑顔で突っ込んで来るから余計に怖いんだよなぁ……。

「た――――っ!!」

 ばぐっ!

 マルチの組んだ両手が、セリオにヒットするかと思った瞬間。
 やはり、光る円盤がその攻撃を押し止めていた。

「むむっ、生意気なのですう」

 ばっしゅぅぅ!

「な、生意気って……」

 俺の呟きをよそに、マルチはますますホバーの圧力を上げる。
 廊下中に勢いよく吹き荒れる風、彼女達のスカートだって嬉しい具合にひら
ひらとはためいてくれて。

「たりゃ――――っ!」

 と、マルチに押されて段々と円盤がたわんで行く。
 原理はどうなっているのかは知らないが……何をどうやって固めてるんだろ、
ああいうバリアって。

 みし……みしし……。

「おおっ、もう少しだっ! いい感じの音がして来たぞっ!」

「えへへー、破ったら誉めてくださいー☆」

 みし……みしぃ……ぱきょん!

「おおっ!」

 乾いた音と共に、光る円盤が砕け散る。
 その欠片は宙で溶けるように消え、そしてセリオが安堵の溜め息を漏ら……
そうとしたけれど。

「食らうのですぅ☆」

「「あ」」

 そーいやあいつ、あーなったら止められないんだった。

 ……どこん。






 んで、その後。
 単にランドセルを外せばよかっただけなことに気が付いて、やたらげんなり
した俺達なのだった。






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