へなちょこセリオものがたり

その123「DEAD ZONE」








「それでは浩之さん、参りましょうか?」

「うぉぉぉ! 参ったぁぁぁ!!」

 ごろごろごろっ。

 俺は頭を抱え込み、これでもかという程に床の上を転げ回る。

「…………」

 かきんっ。

「……はっ!?」

 やけに乾いた音が鳴り響いたのと、部屋の気温が少し下がったことに気付く
俺。
 部屋の端まで行ったところで起き上がり、セリオの方を見てみると。

「……それ、どっから出した?」

「嫌ですね……30mm対化物用砲、『ハルコンネン』ですよ」

 全長2メートルは軽く超えているであろうソレを、いとも軽々と俺に向けて
構えるセリオ。
 俺はそんなお前の方が嫌だと思うぞ。

「いや……そんなモノ、何で持ってるんだよ?」

 最早、取り出した場所が問題なのではない。

「来栖川財閥は歴史も古く、各国王室とのお付き合いもございまして……この
ようなモノの設計・開発なども、事業の一環として行っております」

 だからそんなことを聞いているんじゃなくってさ。
 『化物』って何やねん、『化物』って。

「……それでは浩之さん、参りましょうか?」

 がきんっ。

 にこやかな笑顔で、セリオは再び俺に問う。
 同時に居間には、無粋なコッキング音が響き。
 ……そして、俺は。

「あ、ああ……晴れるといいな、今日……」






 というわけで、今日は遊園地だ。
 しかも、お化け屋敷オンリーで。

 ……いや、昨夜みんなでホラー映画観てたらさぁ。
 俺が怖がりだの、マルチは怖がりだのってセリオが言うもんだから……。

「浩之さーんっ♪」

 ぱふぅ☆

「……マルチは元気だな……」

 出がけに死にそうな目にあった俺は、マルチに合わせてはしゃぐ元気もなく。
 腕をぎゅうぎゅう抱かれているにも関わらず、その感触を楽しむ余裕すらも
なかったり。

 ぐいぐいっ。

「ほらほら浩之さん、昨夜言った通りに『怖いものなし』なところを証明して
みせてくださいな」

「お、おう……」

 セリオにずるずると引きずられ、お化け屋敷に向かう俺達。
 俺にしがみ付いていたマルチは、さも当然のようにお化け屋敷に向かう俺達
に対して不思議そうな声を上げる。

「ほええ? どーしてあっちに行くのですかぁ? 観覧車はこっちですよぉ」

 それ、また今度な。
 麦藁帽子も買ってやるから。

「マルチさん、私達が行くのは『お化け屋敷』のみです」

「がっ、がびーんっ! 私のかんぺちなでーと計画がぶち壊しになってしまう
のですぅ〜!」

 ……どんな計画かは知らないが、そんな大袈裟に残念がらんでも。

 そんな俺達に対して、セリオは何気に嬉しそう……勢いとはいえ、我ながら
無謀な賭けをしたものだ。
 何せ負けたら……おう、口に出すのも怖いくらいだぜ。

「だうー……」

 目の幅の涙を流しているマルチは気にしないことにしたのか、セリオは俺に
にっこり微笑みかけて。

「楽しみですね、浩之さんっ♪」

「……おう」

 そして無理矢理俺達を引きずって行くセリオって、ちょっと怖い。






「こっ……怖い匂いがぷんぷんするのですう」

 ぎゅっ……。

 お化け屋敷に入った途端、マルチは早速怯えモード全開。

「ははは、マルチは怖がりだなあ」

「浩之さんも、叫び声を上げても構わないのですよ?」

 だって、セリオがにやにやしながら傍で見てるんだもん。
 例えそれが虚勢であっても、今は怖がりぶりを見せることは出来ないのさ。

「んきゃぁぁぁ! きゃーきゃーきゃーっ!」

 順路の両脇にある提灯や何やらだけで、マルチは悲鳴の特盛りてんこ盛り。
 ええい、抱き着かれてるだけにすげぇうるせぇ……こーいう時は、アレだな。

「おい、マルチ」

「はっ、はいい?」

 パニックになりかけてる中でも、俺の声はわかってくれたようで。
 すがるような眼差しのマルチ……俺を見上げたのは、零れて落ちそうな涙を
堪える為だけではなく。

 ……その時が、狙い目。

 ちゅう。

「ふむっ!?」

 ちゅうううう、ちゅぱぱっ……ちゅるるるるん。

「……っはぅ……っ」

 かくん。

 半ば本気の俺に敵うはずもなく、俺にもたれかかって気を失うマルチ。
 そんなマルチを背中に背負いつつ、隣のセリオに目をやると。

「……ん? どうした?」

「いっ、いえ……別に」

 しゅーしゅー蒸気か何かを噴いているマルチを、羨まし気に見つめるセリオ。 
 そんなセリオに、俺はにっこり笑いかけ。

「セリオは……怖がって叫んだりしないよな?」

「……お戯れを」

 ひくくっ。

 恐らくセリオも、同じ真似をしようとしていたのだろう。
 俺が叫んだが最後、『口を封じる』とか言って……。
 ところが先手を取られたもんだから、浮かべた笑顔も引きつっていて。

「私は先に、出口でお待ちしております……それでは」

 たたたた……。

「ふ、愛い奴よ」

 張っていた気を抜くとともに、大きな溜め息を吐く俺。
 どうやら賭けには勝つことが出来た模様。

「……さぁて、あんまり拗ねてなけりゃいいけど……」

 だらーんと力の抜けたマルチを背負い直しつつ、セリオの後を追う俺なので
あった……が。

「んきゃ――――っっ!!」

 んどきゃっ!
#ドリームキャストのことじゃないよ(笑)<ドキャ
 前方から、絹を裂くような女性の悲鳴……に次いですぐ、閃光と爆発音。

「……俺はそんなお前が怖いぞ、セリオ」

 っていうかさ。
 怖くても叫ぶだけにしといてくれ、頼むから。






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