へなちょこセリオものがたり

その124「眠れない夜」








「ん……」

 ばるる、すぴょぴょぴぅ。

 ……マルチ、どんな寝息やねん。
 そう思いながら、俺は目を開いた。

 カーテンの外は未だ薄暗く、目覚まし時計を見るまでもないだろう。
 何時かは知らないけど、朝になったら2人が優しく……優しく俺を起こして
くれることだろう。
 俺が今すべきことは、深く眠ること。
 2人の笑顔で1日を始められるよう、深く深く眠っていること。

 両腕に心地よい重みと温もりを感じつつ、意識を再度沈黙させようとする俺。
 だが……気が付けば、セリオの側からは寝息が聞こえておらず。

「ん、セリオ? 眠れないのか?」

 そっと目をやると、彼女は俺の顔を見上げていた。
 俺の腕に抱かれながら……両の目で、しっかりと。

「――――はい」

「ん。なでなでしてやるから、一緒に寝ような」

「はい」

 なでっ……。

「んっ……」

 心地よさ気に、吐息を漏らし。
 セリオは今より更に、俺に頬をすり付けて来て。

「んふぅ……♪」






「……あの、浩之さん」

「ん?」

 数度なでた後、彼女が唐突に口を開く。

「浩之さんは、どうしてそんなに優しいのですか?」

 ……あ?
 俺が、優しい?

「セリオ、何を言って……」

「……私には、わかりません。浩之さんは、私が考えるどんな浩之さんよりも
優しくて……」

 ぎゅぅ……。

「……セリオ、お前だって優しいぜ?」

 俺のパジャマを強く握り締めたセリオ。
 俺は頭をなでる手を止め、彼女の肩を抱いてやって。

「はい?」

「何でお前は俺に優しくしてくれる? それは……何でだ?」

「私が……?」

 ふっと、セリオが俺のパジャマを握る力が弱まって。
 代わりに、俺が彼女を抱く力が強まって。

「胸に手を当てて、少し考えてみな。俺もお前もマルチも、理由はきっと同じ
だからさ」

「……はい」

 そっと、俺から手を離すセリオ。
 そしてその手は、ゆっくりと……。

 ……ぴと。

「……お、おい?」

「……浩之さんの胸、暖かいですネ……♪」

 するっとパジャマの隙間から、俺の胸板に直に手を這わせ。
 快感とも言うべき感触を伴って、セリオの手が俺の胸や腹の上を滑る。

「暖かい感触、暖かいキモチ。……これが理由でしょうか、浩之さん?」

 俺は、変な声が出そうになるのを何とか堪えつつ。
 それは違うと、彼女に告げようとしたけれど。

「あのな、セ……むぐ」

 ちゅ……。

 俺が口を開きかけると、セリオは身を滑らせて来て。
 自らの唇で俺の口を塞ぎ、しばしの間沈黙……。

「……ぷは」

「うふふ……これ『も』理由、でしょう? 浩之さん」

 陶然とした目で俺から顔を離し、にっこりと微笑む。
 まだ薄暗い部屋の中では、そんな彼女がとても綺麗に見えて。

「……ああ。そうだな」

「何となく……わかった気がします……♪」

 ぱふっ。

 そして、そのまま身をすり寄せて来て。
 安心したように、ほうっと溜め息を吐いて。

「では、おやすみなさいませ」

「ああ、おやすみ……」

 俺は、お前がわからねぇ。
 とか言ったら、またキスしてくれるかな……?

 などと考えつつも、俺の意識は薄れていく。
 ……いい夢見ろよ、セリオ……。






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