へなちょこセリオものがたり

その126「抱きしめてtonight」








「浩之さん、ちょっとよろしいでしょうか?」

「お? コトと次第によるが、概ねよろしいぞ」

 俺がそう答えた時、セリオが少し引きつった笑顔を浮かべたのが気になった。

「……実は、お願いがありまして」

「何よ?」

 俺のお小遣い削減には、断固反対するぞ。
 カ○ピス費削減も却下だ。

「しばらくの間、じっとしていて下さいませ」

「お、おう」

 内心身構えていた俺だったが、何てことはない簡単な要望。
 別に忙しくもないし、断る理由もない。

 何よりセリオがほんわり頬を染めていることに気付き、これからのセリオの
行動に期待してしまう俺なのだった。

「では、ちょっと失礼しまして……」

 ……ぽふ。

 柔らか暖かい感触が、俺の胸に飛び込んで来た。
 前触れらしい前触れもなかったので、俺は一瞬何事かと思ったが。

「……なるほど、『このくらい』ですネ」

「……あ?」

 背中に回した腕に、力を込めたり緩めたりしながら呟くセリオ。
 ……何よ、一体?

「浩之さん、少し屈んでくださいませ」

「お、おう」

 やっぱり頬は赤いまま、セリオは俺から少し離れ。
 俺は言われた通り、少し屈んでみる。

 すると、セリオは俺の頭を抱きかかえ……。

 ぱふっ。

「……『このくらい』……ですか」

「な、何が?」

 このくらいって言われても、俺には何が何やら。

「その……『手編みのセーター』なるモノを製作しようと思い立ったのですが、
浩之さんの身体のサイズが不明でして……」

「おいおい」

 セーター作ってくれるってのは嬉しいのだが。
 だからって、『このくらい』でどうする気よ。

「あのっ……もしかしたら、寸法を忘れてしまって何度か測らせていただきに
参るかもしれませんが……」

 名残惜し気に俺から離れ、頬を染めつつ下を向き。
 口元に手を当てていたのは、恥ずかしさを押し隠す為だろうか。

「……おう、いつでも言ってくれや」

「あ……ありがとうございマス♪」

 とたたたた……。






 ……多分、マルチ並にころころ忘れるんだろうな。
 なんてことを考えつつ、セリオの背中を見送る俺なのだった。






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