へなちょこセリオものがたり
その127「はっぴぃ☆ばぁすでぇ」
「「お誕生日おめでとうございます、浩之さんっ♪」」
「お、おう。さんきゅ」
目が覚めるなり、ステレオでそう言われた俺。
俺でなくともどぎまぎするに違いない。
「これでまた1つ、野望に近付いたのですぅ〜」
よくわからないことをほざきつつ、俺の着替えを用意するマルチ。
セリオはと言うと、お道具袋から小さな箱包みを2つ程出して来て。
「お誕生日、おめでとうございます……これは私達からのプレゼントです」
うおう、更にプレゼントまで用意してくれるとわっ!
藤田浩之、漢冥利に尽きるぜっ!
「あっ……ありがとよっ」
畜生、小憎らしい真似してくれやがって……!
俺は天井を仰ぎ見つつ、セリオからその包みを受け取った。
手応えはずしりと重く、中身は一体何なのやら。
「あのさぁ、今開けてもいいか?」
嬉しさの涙を必死で堪え、セリオに問う俺。
すると彼女は、その顔を一瞬で朱に染め。
「は、はいっ……私達の、1番大事なモノが入ってマス……♪」
「そ、そうか……」
マルチとセリオの、大事なモノ。
長く付き合って来た俺ですら、そう言われると何が『1番大事なモノ』だか
わからないような気がする。
……この中には何がっ!?
「あ……セリオさん、もう渡しちゃったんですねっ」
「ええ……こういうことは、早い方がいいと思いまして……」
俺の手の中の包みを見るなり、マルチも顔を赤くする。
2人の熱い視線を感じながら、ゆっくりと……慎重に包みを解く俺。
そして、その中に入っていたモノは。
「……何よ? コレ」
グレーのスチール箱の真ん中に、押してくれと言わんばかりに自己主張して
いる真っ赤なボタンスイッチ。
2つの箱には、どちらも見た目は全く同じモノが入っていた。
「はい? 見ての通り、自爆スイッチですが」
『見ての通り』じゃなくてさぁ。
「私達の1番大事なモノを、私達が1番好きな浩之さんにぷれぜんとですぅ♪」
……おう、確かに『1番大事』なのだろうが。
何を好き好んで、こんな物騒なモノを俺が持たなくてはいけないのか。
「…………」
俺は無言で起き上がり、箱を持ったまま階下へ降りる。
電話の脇に箱を置き、そのまま短縮ダイヤルのボタンを押す。
とぅるるる……とぅるるる……がちゃっ。
「……おっさん、何よコレ!?」
『ん? 藤田君か……ああ、アレをもらったんだね』
むぅ、どうやらおっさんは全てお見通しの模様。
「だから、何なのよコレ?」
『……漢の浪漫、かな』
「…………」
がちゃん。
……押すべきか、押さないべきか。
単なる冗談とも取れるが、あのおっさんならやりかねん。
とりあえず……机の引出しに、鍵かけてしまっとくか。
とか思いつつ、階段を昇る俺。
とん、とん、とん……。
すぐに2階に着くと。
涙目の2人が、俺を待っていた。
「浩之さんっ……そんなモノを持って私達を放置するなんて……新手のプレイ
ですかっ!?」
違っ。
「あうあうあう、寂しかったのですぅ☆」
だだだだだっ、どっすん。
「うわっ」
……しっかり持っていたつもりだったが。
『もしも』の可能性が嫌だったのだが。
マルチのナイスタックルは、俺の体勢を見事に崩し……そして、手に持って
いた2つの箱が床に落ちる。
かちっ。
「「……あら?」」
「……なぁ、今のはどっちの音?」
「「さ、さぁ……?」」
彼女達が困り顔を傾げた、次の刹那。
その答えを、俺が理解する前に訪れた。
……ちゅどん。
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