へなちょこセリオものがたり

その129「一瞬」








「ただいまぁ」

 がちゃっとドアを閉じる音。
 ぱたぱたと廊下を走る足音。

 いつもの光景……だったハズなのですが。

「お帰りなさいで……すぅ――――っ!」

 ぼぶしゅー。 

「……何事でしょうか?」

 先に走って行ったマルチさんを追い、私も居間から顔を覗かせると。
 ニヤリと笑っている浩之さんの足元に……幸せそうな顔で白い蒸気を噴いて
倒れているマルチさん。

「よぉ、セリオ。ただいま」

「…………」

 わ、私の知らぬ間に何が起きたのでしょう?
 恐らくは……いつもの通りにマルチさんが浩之さんに抱き着いて、浩之さん
のなでなでがあって……かと言って、今更その程度ではオーバーヒートしない
身体に調教されている私達なれば……?

 とはいえ、あのマルチさんの表情。
 ……何が起こったのか、確かめなければならないでしょう。

 とたたたた……。

「……お帰りなさいませ」

 と、私もいつものように浩之さんに抱き着こうとしたのですが。

 すかっ。

 かっ、かわされたっ!?
 おのれ浩之さんっ、ちょこざいなっ! 軍事用ロボさえ圧倒する、この私の
身体捌きをっ……?

「甘いぜ、セリオっ!」

「はっ!?」

 慌てて反転して、浩之さんの身体を捕らえようとしたその時。

 ぱふっ☆

「あ……そんなっ……」

「ふふふ、これぞ必殺『クロスカウンター抱き抱き』だっ!」

「きっ、聞いたことがありマス……相手の勢いを利用して、自分の技の威力を
倍加させるという……」

「ふ、そういうわけだ」

 勝ち誇る浩之さん。
 私はというと……せめてもの反撃にと、ぎゅぅっと浩之さんを抱きしめよう
としたのですが。

「ほい、カウンターなでなで」

 なでなでっ。

「しまっ……」

 カウンター合戦は倍々ゲーム。
 抱き抱き・なでなでの相乗効果も相まって……私の意識は幸せの底に沈んで
行くのでした。

 ぷしゅー……♪






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