へなちょこセリオものがたり

その130「勝負!」








「浩之さん、浩之さんっ」

「お?」

 トランプのケースを携え、マルチが走り寄って来る。
 遊んで欲しいのかと思ったら、セリオも一緒にやって来て。

「浩之さん、ご一緒にトランプしませんか? ……勿論、勝った者の言うこと
を何でも聞くという条件で」

 マルチからトランプを受け取り、妙に手馴れた手付きでカードを切り始める
セリオ。

 ちゃっちゃっちゃっ……。

「おうよ、受けてやるぜ」

 ニヤリと妖しく笑うセリオ相手に退いたとなれば、この藤田浩之一生の不覚。
 ここは幼い頃『フルハウス浩之』の異名を取った腕前を是非とも披露せねば
なるまい。

「んじゃ、勝負はポ……」

「勝負はババ抜きデス」

 はうぁ!?
 いきなり俺の出鼻を挫く作戦かッ!?
 おのれセリオ、恐るべし策士であることよ。

 ……いや、こいつらは俺の幼少のみぎりなんぞ知るまい。
 トランプでは(あかりと雅史相手には)負けなしのこの俺、例えポーカーが
ババ抜きになろうとも負けはせぬ!

「では……いざ、勝負っ!」

「「はいっ!」」

 俺のかけ声に呼応して、セリオはしゅたしゅたっとカードを配り始めるので
あった……。






「……よーし、残り3枚だぞーう」

 ここで、マルチ・セリオ共に手札は5枚。
 余程の下手を打たない限り、俺の勝ちは間違いないだろう。

 ちなみにババは恐らくマルチが持っている。
 さっきから『あうあう』ばっかりしか言わないもんなぁ。

「……ううっ」

 たらーり。

「おやぁ〜? どうしたセリオ、もしかして冷や汗かなぁ〜?」

 へらへらへら。

「いっ、いえ……決してそのようなことはありませんっ」

 そう言いながら、ぐいっと頬を伝う汗を拭うセリオ。
 全く負けず嫌いな奴だなぁ、へらへら。

「さぁセリオ、早くしろよぉ〜」

 勝利を掴みかけ、へらへらしながらセリオの顔を覗き込むと。
 まるで何かを決心したかのように、マルチに向かってこっくり頷いて。

「ん……?」

「……わっかりましたぁ、セリオさんっ☆」

 喋ったらアイ・コンタクト台なしやん。

「何をしている?」

「……うふふふふ、この勝負は私達がいただきマスっ☆」

「いただきますのですぅ♪」

 そして。

 2人揃って、にっこり笑い。
 2人揃って、手札オープン。

「さぁっ! ロイヤルストレート・フラッシュっ!」

「私はえーすのふぉーかーどですぅ」

 ずびしっ!

 ちなみにマルチはエースをババで1枚誤魔化している。

「なっ、何ぃっ!?」

 バリバリ反則やん。

「ちょ……ちょっ」

「あ、ちなみに浩之さんは少牌で罰符が付きマス」

 麻雀も混ざってらぁ。

「では、文句なく最強手の私の勝ちということで……」

「文句あらぁな!」

「どきどき、セリオさんは何をご命令されるのでせふ?」

 うぁ、セリフもめっちゃ不自然なのな。
 その上うやむやの内に話を進めようとしてやがるし。

 事前に裏で通じてたか……予測しておくべきだったぜ。

「そうですねぇ……では、無難になでなでしていただくということでっ」

 無難で済ますなよぉ。
 ……ま、いいけどさ。

「仕方ねぇなぁ……」

 苦笑いしつつ、2人が並んで座るのを待って。

「「ほぅ……♪」」

 そしてゆっくりと、優しく2人の頭をなでてやる俺なのであった。






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