へなちょこセリオものがたり

その137「いらっしゃいませ」








「「いらっしゃいませ〜♪」」

 その日帰った俺を向かえたのは、2人の明るい挨拶だった。






「お煙草はお吸いになりませんか?」

 吸わねぇ。

「現在こちらのメニューがお勧めとなっていますぅ☆」

 聞いてねぇ。

 わけがわからず止める俺に構わずに、ファミレスみたいなメニューと氷水を
持って来るセリオとマルチ。
 どこから仕入れたのか、某有名ファミレスの制服……胸元が強調されるやつ
を着ていて、セリオの胸が普段よりやや大きく見えるのは気のせいか。
 ちなみにマルチの胸は大して変わって見えん。当たり前だが。

「……そうか、今日はそういうプレイか」

 1人納得した俺は、渡されたメニューに目を通す。
 カラー印刷の上にラミネート加工されたそれは、正にファミレスな雰囲気を
醸し出していた。

「あのさ、このメニュー全部出来るの?」

 ステーキやグラタン、ピザにケーキなどと言った定番メニューが並んでいた。
 さすがセリオがいるだけあって、バリエーションは豊富だ。

「はい、ご遠慮なくどうぞ」

「んじゃライスとこの肉、ドリンクはカルピ○で」

「はい、かしこまりました」

 俺からメニューを受け取り、セリオとマルチはキッチンの方へ引っ込んで。
 俺は出された氷水を飲みながら、これでもかと言う程にくつろぐのだった。






「お待たせいたしました」

 テレビを観ていたら、がらがらとワゴンを押す音が響いて来て。
 待ってましたと振り向くと、そこには……。

「ご注文のライスとステーキをお持ちいたしました」

「おう」

「但し女体盛りですが」

「……何ぃ!?」

 ワゴンの上には、全裸の……いや、ニーソックスのみを身に着けたマルチが
横たわっていた。

「あ、あうう……熱いうちにお召し上がりくださいぃ……」

 さすがにじゅーじゅーとは言ってないものの、肉からはほこほこ湯気が。
 いくら何でもこりゃ熱い。火傷してしまうのではないか。

 いかん、早くマルチを救わなければ!

「せせせセリオっ! ナイフとフォークぷりーづっ!」

「……はい」

 セリオはにっこり笑って、かちゃっとそれらを手渡す。

 ようし、マルチ! 今俺が助けてやる!
 身体の上のもん全部食ってナ!

 まずは右胸の上、肉だ。
 これが1番高温であろう。

「あ、肉汁が……」

 マルチの脇の方に垂れた肉汁を、俺はぺろぺろと舐め取る。
 彼女はびくびくっと身を震わせたが、この際食うことが重要なので気にせぬ。

「いっただっきま――――すっ!」

 言うなり1口で肉を平らげる俺。
 そしてお行儀の悪いことに、『皿』に残ったステーキソースを残らず舐める
俺。

「はぁ、はぁ……」

「ふゃぁぁん……お客様、ライスを早くっ……」

「お、おお」

 次はマルチの左胸だ。
 平たい胸がこんなところで役に立ち、見事に皿の代わりとして機能している。

 これまた湯気を立てていて、マルチはひくひくと熱そうにしていて。

「あっ、ああっ……」

 時々声を漏らすマルチを無視して、俺は少しずつライスを口に運んで行く。
 ……いやぁ、美味い美味い。
 『皿』に付いた米粒の1つに至るまで、やはり綺麗に舐めとってしまった。

「ふぅ……ご馳走様」

「……浩之さん、まだご注文の品は全部出て来ていませんよ?」

「あ?」

 セリオはコップを手に取ると、マルチの下半身の方へと移動して行く。
 そして脚の間……付け根にコップを押し当てると。

「さぁ、マルチさん……最後のメニューですよ?」

「はっ、はぁい……」

 マルチがぶるっと身体を震わせると、セリオの持っているコップの中に黄色
に濁った液体が注ぎ込まれて行く。

 ちょろちょろ……。

「お、おい……」

 俺は思わず出た涎を拭き取りながら、その光景を見守る。

「ん……んっ、はぁっ……」

 やがてコップがその液体で満たされると、セリオが満面の笑みで振り向いて。

「さぁどうぞ、○ルピス・オレンジですが」

「おうよ!」

 引っ手繰るようにしてそのコップを奪い取り、慌てて一気飲みする俺。
 例の通りよく冷えていて、美味いことこの上ない。

「ぷっはぁ!」

 だんっ、とコップをテーブルに置く俺。
 そんな俺の傍に座り、セリオがしなだれかかって来る。

「当店のお料理……ご満足いただけましたでしょうか?」

「ああ、最高だ」

 台の上ではぁはぁと荒い息をしているマルチを眺めつつ、俺はこくりと頷く。
 それを確認したセリオは、満足そうにマルチの乗ったワゴンを押して戻って
行った。

 さて……この後となると、やっぱり『デザートは如何ですか?』とか『次は
私達をご堪能ください』とか言って来るに違いない。長い付き合いだし、その
程度は俺が先読みして話に乗ってやらないとなぁ。

 いそいそと服を脱ぎ捨てる俺。
 パンツ1丁になり、ソファーの上で彼女達が戻って来るのを今か今かと待ち
受けていたら。

「はぁ、どきどきしたですー」

「ふふふ、また今度遊びましょうネ」

 いつもの学校の制服に着替えた彼女達が、何事もなかったかのように戻って
来た。

「あら……浩之さん、何をされているので?」

「いやぁん、浩之さんってば裸で変態さんなのですぅ〜」

「……へ?」

 呆れたような目で俺を見る2人。
 つまりは、さっきのは突発的なイベントであって別に俺とごろごろだきだき
ふにふにしようとかいう意図は全くなかったと……?

「へ、へへへー」

 間抜けな笑いを残しつつ、俺は衣類を抱えて2階へ逃げるのだった。






「浩之さん、何だか可哀想だったですー」

「ふふふ……お料理をお出しした後には、しっかり料金をいただかないと……」

「じゃぁじゃぁ、今から取立てに行くですかっ?」

「ええ」

 にっこり。

 そして今日もまた、長い長い夜が始まるのでした……。






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