へなちょこセリオものがたり

その138「メイドさんロックンロール」








「トイレキッチンお風呂場ベランダ〜♪」

「いぇ〜い♪」

 階下に下りると、マルチとセリオが仲よく掃除をしていた。

「よう、精が出るな」

「ええ、やはりユニフォームを着ると気合いのノリが違いますネ」

 うんうん。

 ちなみに、マルチもセリオもメイド服を着用している。
 頭にはカチューシャまで着けて、正に気合い十分だ。

「そうそう、この窓を拭けば全部終わりですから……もしお暇があれば」

「わかってるって、ご褒美だろ?」

「はい♪」

 見ると、マルチももの欲しそうな顔をしていたが。
 どうせ一緒になでなでするだろうしと、邪魔にならないようその場を離れる
俺なのだった。






「浩之さん、終わりました」

 ぱたぱたと、嬉しそうにセリオが駆けて来る。

「おお、お疲れさん」

 俺はソファーから立ち上がり、彼女をぱふっと抱き止める。
 フリルの付いたカチューシャを外してやりながら、一緒にソファーに座り。

「お前達のお陰だな、この家がカオスフィールドにならないのは」

「うふふ……浩之さんの為ですから」

 そう言って、ぽふっと顔を俺の胸に埋めて来る。
 うむうむ、愛い奴め。

 とか言う感じでなでなでしていたら。

「はっ、はうー……」

 居間の入り口に、何故か手足を縛られたマルチが転がっていた。
 猿ぐつわをかまされていたのか、首のところにハンカチが輪になっていて。

「浩之さんっ、その女に騙されてはいけないのですぅ!」

「……何?」

「浩之さんのなでなでを独り占めしたいが為に、この可憐な私を縛りーの物置
に放り込みーの閉じ込めーのしたのですぅ!」

「……いや、だってさっきまで一緒に……」

 可憐とか何とかは放っといて。

 ……いや、マルチの服がさっきまでのメイド服じゃないっ!?
 セリオが何も着替えていないところを見ると、マルチだけわざわざ着替えた
と言うことは考え難い。

 な、ならば……?

「セーリーオー」

 俺は、いきなり手をなでなでからぐりぐりに変更。

「ああっ」

 セリオを放り投げ、マルチの元へ駆け寄る俺。
 固く縛られていたロープを何とか解き、その身体を抱きしめる。

「ううっ、暗くて狭くて怖かったのですぅ〜」

「大丈夫、もう大丈夫だからな」

 ぽろぽろと涙を流すマルチを、安心させるようにぎゅっと抱きしめて。
 俺は、ぎろっとセリオを睨み付けた。

「どういうことよ?」

「そ、その……」

 ふいっ。

 セリオは視線を思いっきり逸らす。
 これで最早言い訳は出来なくなった。

「俺が察するに……マルチがいなければセリオ1人が俺に誉められて、その後
ベッドで1人だけ俺に攻められまくると言う……」

「そ、その通りデス……あのマルチさんは、新装備の3次元投影装置で……」

 がくっ。

「はっはっは、馬鹿だなぁ」

 マルチを抱っこしたまま、セリオの傍に近付いて。

「俺が今までどっちか1人だけを可愛がったことなんてあったか?」(きらん)

「ひ、浩之さん……許していただけるのですか?」

 目元に涙を潤ませ、俺を見上げるセリオ。

「おいおい、俺よりマルチに訊くべきじゃないか?」

「すみませんでした、マルチさん……」

 が。

「……絶対に許しませんですぅ」

「がびーん」

「だそうだ……んじゃお前、縛って物置行きな」

「ずがびーん」






 夜になって、ようやくセリオを開放してやった。
 それからというもの……セリオが俺とマルチを見る目に多少の怯えが混じる
ようになったことには、あえて触れないことにした。






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