へなちょこセリオものがたり

その139「サイキック・フォース」








「ほぁぁぁぁ〜……」

「……だから駄目ですってば、マルチさん」

「ん? 何やってんだ」

 テーブルの上に置いたジュースの缶に向け、マルチが難しい顔をして何やら
掌をゆらゆら動かしていた。

「あの、マルチさんが突然変になって……」

「何だ、それならいつもと同じじゃん」

 それを聞いて、マルチががくっと体勢を崩した。

「はうう、酷い言われようなのですぅ」

「それはそれとして、一体何やってるよ?」

「ええ、マルチさんがテレビに触発されて『超能力はあるのですぅ!』と……」

「あー、はいはい」

 単純なマルチのことだ、テレビのインチキ番組をそのまま信じ込んだんだろ。
 琴音ちゃんじゃないんだから、その辺の奴らがほいほい出来て堪るか。

「で、手を触れずにものを動かそうってか」

「はいっ、私の予想ではもうすぐ動くはずなのですぅ」

 そんな待ってれば動くようなもんかよ。

「……た――――っ!」

 気合い一閃。
 だが、当然ながらジュース缶はぴくりとも動かない。

「はふー、今日はこの辺で勘弁してやるのですぅ」

「参ったって言えよ」

 ぺちっ。

「はうう」

 笑いながらマルチの頭を叩いていると。
 セリオが、実に真面目な顔でぽつりと言った。

「私は出来ますけど……」

「何きゅ!?」

 そりゃ俺も吃驚だ。
 さすがはサテライトシステム搭載の最新鋭機、只者じゃねぇ。

 俺はソファーに腰を下ろし、セリオをまじまじと見つめた。

「マジ? 見せてくれよ」

「はい」

 セリオは一旦眼を閉じ、ゆっくりと開く。
 そして両の掌を俺に向け、動きを止めた。

「……もしかして、俺を動かすの?」

「……ええ、浩之さん自身を」

 と、言うが早いか。
 俺達が見ている前で、あっと言う間に衣服を脱ぎ去った。

「あ?」

「うふふ……浩之さん、下着姿の私は如何ですか?」

「い、如何って言われても……」

 いつも見慣れたナイスボディ、綺麗な流線を描いていて。
 ぎゅっと腕を内側に動かし、胸を寄せて強調されたりした日には。

「かっ……可愛いぜ、セリオ!」

 真っ白な下着は清楚なイメージ、それでいて自己主張の強過ぎないデザイン
だったりするからもう。

「あ……動いたですぅ」

「……何が?」

 おいおい、喋ったくらいで『動かした』とか言われても納得しないぜ。

「ふふふ……浩之さんは正直者ですネ」

 ゆっくりと俺に近付いて来るセリオ。
 ぴっとり身体を預けてソファーに座り、そして俺の股間に手を伸ばして。

「ほら……動きましたでしょ、ここ」

「……あー」

 そこは、俺の中で最も元気で正直な部分。
 正に、手も触れずに動かされたわけで。

「なぁ……それってズルくねぇ?」

 ごくごく自然な流れとして、セリオの身体に手を這わせつつ言うと。

「ナニがですか?」

 にっこり笑うセリオに、俺は溜め息1つ。
 今日のところは、セリオの超能力に踊らされることにしたのだった。






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