へなちょこセリオものがたり

その144「めがうぇ〜ぶ」








「浩之さん、今回のメンテナンスで『家庭用インターネット』機能が追加され
ました」

「何だそりゃ」

「はい、一般には電話回線などの通信環境とパソコンが必要でしたが……私の
新機能ではそれらは不要なのデス」

 へぇ、7研も粋な真似をする。
 うちの電話料金事情を少しでも助けてくれるってか。

「で、どうやんの?」

「はい、まずテレビと私を接続します」

 セリオは手首のメンテナンスハッチを開け、ビデオとか繋ぐ時に使う3色の
AVケーブルを取り出した。
 きゅっきゅっきゅっと手首のコネクタにそれを刺し込み、今度はテレビへと
ケーブルを繋いだ。

「私がパソコンの代わりになります。通信時は電波を発して、それを受信した
来栖川電工ダウンロード・センターがインターネット上のデータを一旦プール
して……」

「ああもう、わけわかんねえ説明はいいから早くやってみせてくれよ」

「いえしかし、そのダウンロード・センターから通信衛星にデータが送られ私
がその衛星からのデータを受信すると言う……」

 なるほど、よくわからんが難しいことをしているのだな。
 それはそれとして早くインターネットさせろ。

「ええい、いいからインターネットインターネット」

「ああっ、そんなインターネットの何たるかも知らないような発言を」

 セリオは少しげんなりしながら、俺の手を握った。

「では、最初に来栖川電工ホームページへ参ります。私の手がマウス代わりに
まりますので、テレビ画面を見ながら色々操作してみてください」

「おうよ」

 きゅっと優しく握り返すと、セリオは嬉しそうに微笑んだ。

「あ、そうだ。アドレスだかURLってのはどうやって入力するんだ?」

「はい、それは私に見せていただければ即座に入力完了します」

 そうかそうか。

 てなことをやっている間に、いつの間にか来栖川電工のホームページが表示
されていた。この間数秒。

「む、随分速いな」

「ええ、既存の回線とは違って電波でやり取りしていますから……相手サーバ
の能力さえ高ければ、理論上は10Mbpsでも100Mbpsでも軽いもの
です」

 へぇ、今まで電話回線でインターネットやってたからそんな数字は夢のよう
であることよ。

「つまり底なしに速いってわけだな、衛星インターネット」

「ええ」

 全く便利なサテライト・サービスだぜ。

「んじゃ、早速どっか見に行ってみよう」

 俺はポケットから秘密の手帳を取り出した。
 学校の悪友達から教えてもらった、どれもこれも裏モノみたいな素敵ページ
だ。

「ほい、セリオ」

「はい」

 一瞬手帳を見ただけで、すぐに表示が切り替わった。
 『18歳以上ですか? Y/N』……こんなんシカトだな。

「浩之さん、このページは18歳未満閲覧禁止のようですが」

「ああ、俺は手が滑ってYを押しちゃったってことで」

 くいっとな。

 セリオの手を少し動かし、軽く指先で押す。
 それでクリックされたことになった模様だ。
 そして待つこと数瞬。

「おおお、いつもは表示に5分もかかってたのに一瞬で!」

「…………」

「あ、新しい子の画像が追加されてる! セリオ、保存だ保存! ページ全部!」

「あのぅ……」

「ん? どうした?」

 こういうのはいつ消されるともわからないから、発見・即保存が原則なのに。

「私やマルチさんでは飽き足らず、いつもこういうページをご覧になっていた
のですか?」

「あ……いや、その……ご飯とおやつの関係って言うか……決してセリオ達に
不満があるってわけじゃなくてだな」

 セリオは何やらぶつぶつ言いながら俺を恨めしそうに見上げていた。
 参ったな、やはりえちーページは1人で閲覧するに止めておくべきだったか。

「……インターフェイス変更」

「へ?」

「さぁ浩之さん、インターフェイス部分を変更しましたのでもうこの手で操作
することは出来ません」

「どういうこと?」

「私の身体の一部分がマウス代わりになりました……それがどこかは浩之さん
自身が探してください」

 む、むぅ。
 俺の意向を妨げないながらもささやかな抵抗を見せると言うわけか。

「こ……ここ?」

 まずは足先に触れてみる。

「ぶっぶー」

「じゃぁ……お尻?」

 さわさわ。

「んっ……ぶぶーっ」

「わかった! 胸だな!?」

 ふにっ。

「残念でした……ちなみに場所が特定出来ても、ある『キー』を使わなければ
操作出来ませんので」

「何だよそりゃぁ」

 俺は悩んだ。
 ここ何年かの間でここまで悩んだのは数える程しかないだろう。

「教えろよう」

 セリオの頬を左右に引っ張り、情けない顔にさせてみる。
 が、セリオは頑として答えない。

「浮気は男の甲斐性とも言いますが……私達がいながら、他の女の子に興味を
示すとは言語道断デス」

「だからそれはご飯とおやつの関係で……」

「間食は感心出来ませんネ」

 だー。

「ああもう! こうなったら身体の隅々まで調べ尽くしてやる!」

 がばっ。

「あひぃ、優しくしてくださいなっ♪」






 大義名分の元に、俺は嬉々としてセリオの身体を蹂躙していた。
 だが。

「はぁ、はぁ……上も下も前も後ろも駄目かよ!?」

 しかも何回試したかわかんねぇ。

「あ、途中からインターネット処理を忘れていました」

「がびーん」

 結局インターフェイスがどこで、キーとやらが何かもわからなかったが。
 まぁ……色々いぢめてやったし、気持ちよかったし。

「きょ、今日のところはこれで勘弁してやらぁ!」

「では、明日も場所探しをしてくださるのですネ……?」

 恍惚とした表情で、セリオが問う。
 しまった、やり過ぎたか。

「お、おう……見付けるまでやってやらぁ! 男として!」

「はいっ……♪」

 うっとり中のセリオに抱き着かれながら。
 俺は大きいこと言っちゃったかなー、などとちょっとだけ後悔するのだった。






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