へなちょこセリオものがたり

その146「ドラマティックに恋して」








「ううっ、さようなら浩之さん……」

「セリオ! セリオ――――っ!」

 家の前で倒れた俺は、走り去るセリオを追うことも出来ず。
 ただ、その背中を見つめることしか出来なかった……。






 セリオは家の周りを1周して戻って来た。

「どうだった?」

「ええ、ちょっと転ぶところの演技が未熟でしたが。でもそれ以外は満足デス」

「まぁそう言うなよ、俺は単なる高校生なんだから」

 俺はぽんぽんと服の埃を払いながら、セリオに笑いかける。
 セリオも微笑みながら俺の肩口の埃を払ってくれた。

「ふぅ、しかし何ですね……なかなか不思議な気持ちでした」

「な? 昼下がりの奥様方が夢中になるのもわかるだろ?」

「ええ」

 今日は町内旅行。
 が、勿論俺達は行かなかった。
 人気の少ない今日この日を利用して、いつもは出来ないことをやろうと計画。
 それが『メロドラマごっこ』だった。

「うにゅぅぅぅ、セリオさんだけズルいのですぅ! 次は私なのですぅ!」

 マルチがわにわにっと腕を振り回しながら突っ込んで来る。
 その頭を片手で受け止めながら、俺は彼女をなだめる。

「あーはいはい、わかってるって。シナリオは同じでいいんだよな?」

「はいー」

 と言うわけでテイク2、どん。






「ううっ、さようなら浩之さん……」

「マルチ! マルチ――――っ!」

 家の前で倒れた俺は、走り去るセリオを追うことも出来ず。
 ただ、その背中を見つめることしか……って。

 びったん。

「あうう……痛いのですぅ」

「「…………」」

 俺も門の陰から見ていたセリオも、言葉が出ない。
 とりあえずちょっとしか走ってないのにコケたマルチの傍に行って、様子を
見る俺達。

「大丈夫か?」

「はうう、ここは編集でカットしてくださいなのですぅ〜」

 カットも何もねえ。

「あのな、マルチ」

「ほえ?」

「お前にシリアス系は無理だ」

「がびーん!」

 セリオも傍でうんうんと頷いていた。

「じゃ、じゃぁ……銃弾飛び交う中でのらぶシーンも、ラストに空に顔で決め
ってのも無理だと言うのですかぁ!?」

「うむ」

 って言うか銃撃戦とか空に顔で決めとかはメロドラマじゃないだろ。
 根本的に内容を誤解していると見える。

「うにゅぅぅぅ、でもでも私もヒロイン張ってみたいですぅ! プリマドンナ
の座はぽっと出の貴方なんかには渡さないのですぅ!」

 もう何だか明後日の方角に行ってるし。
 つーか相手は誰よ。そのプリマドンナの座の。

「わかったわかった、んじゃ別の路線で攻めてみよう」

「あ、はーい」

 切り替え早いし。






「マルチ……いいだろ? な、な?」

「やんっ……包丁使ってる時に抱き着かないでくださいですぅ……♪」

 そんなことを言いながらも、マルチは包丁をまな板の上に置く。
 これから何をされるか、きっちりわかっているからだ。

「しょうがないだろ、我慢出来ないんだから……ほら、そこに手ぇ付いて」

 マルチの腰を持ち上げながら、スカートの裾をめくる俺。
 パンティには既に小さな染みが……ふふふ、何だかんだ言ってもこいつ……。

 ばんっ!

 その時、部屋のドアが勢いよく開かれた。

「ひっ、浩之さん! その女は一体何なのですかっ!?」

「せ、セリオ!?」

 鬼のような形相をして、セリオが部屋に踏み込んで来る。
 俺とマルチは、ただそれを見ていることしか出来なくて。

「この泥棒ロボ! 私の浩之さんを!」

「何を言うですかっ、浩之さんは私の……」

「……悪い、ストップ」

「「はい?」」

 何かすげえ気分が悪い。
 マルチにシリアスは似合わなくても、セリオにシリアスが似合っても。
 いつもみんなで仲よしなだけに、俺にはこんな修羅場は似合わないようだ。

「やっぱこーいうのパス……ほのぼの路線で行こうぜ。何か案ある?」

「そうですネ、私は3人並んで日向ぼっこがいいデス」

「あ、私はベッドで快楽と堕落に満ち満ちた状況で」

「ほのぼのって言ってるだろ」

 ぺちっ。

「はうう、冗談ですのにぃ〜」

 マルチはぶらーんと俺の腕にぶら下がる。
 ふぅ、と溜め息を吐きつつも俺は微笑んで。

「まぁ、とりあえず……日向ぼっこしよか」

「「はいっ♪」」






 3人仲よく、俺を真ん中にして日向ぼっこ。
 陽射しはちょっと強かったが、風があるのでそれ程暑くも感じない。

「まうー……」

「…………」

 のっぺりと俺に抱き着くマルチと、ちょっと控え目に俺の腕を抱くセリオ。
 俺は何だか、こんな感じのがいいな。

「やっぱドラマより現実だよな」

 俺はぼそっと呟いた。

 事実は小説よりも奇なり、ってな。
 好きな子が複数いたって、どろどろにならない現実があるじゃん。

「はい?」

「いや、何でもねぇ……」

 2人の温もり、太陽の陽射し。
 ぽかぽかほんわかした空気の中で、俺は浅い眠りに入るのであった……。






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