へなちょこセリオものがたり
その148「アレ」
「浩之さん、今日の晩御飯は何がいいですか?」
「んー……セリオが作るもんだったら何でもいいけどな」
俺は歯を輝かせながら答える。
セリオはぽっと頬を赤らめつつも、にっこり微笑んだ。
「では、誰もが望みつつも食せなかった幻の料理を作りましょう」
「あ? 一体何作る気?」
そんな風に言われると、何だか不安になって来る。
「ふふふ、内緒ですよ」
セリオはそれだけしか答えてくれない。
「今まで食べたこともないようなお料理ですので、楽しみにしててくださいネ」
「お、おう」
と、夕食時。
食卓に座って目の前に置かれたのは、正に見たこともないような料理。
いや……これを料理と呼んでいいものだろうか?
「素材を入手するのに苦労しました……ささ浩之さん、お召し上がりください」
「これ……どうやって食えと?」
「嫌ですねぇ、やはり骨を両手で掴んでがつがつと」
俺達の目の前に置かれていたのは、まぎれもなく漫画肉。
何とか人間とかそれやらに出て来るあれに相違ない。
肉の直径は俺の太股程もあるだろうか。
マルチは言われた通り、かぶり付いて何とか肉を噛み千切ろうと必死でいた
のだが。
「つーか……これ、何の肉?」
「浩之さんってば、あまり詮索するもんじゃないですよっ♪」
とか言いながら、自分はナイフとフォークで器用に漫画肉を切って食う。
「漫画の中だけだと思っていたが……実際に目の前にすると食う気も失せるな」
「そんな、私の料理がお気に召さないのですかっ!?」
あーいやいや、そんなんじゃなくてな。
「いや、量的に1人で食うのは殺人的じゃないかと」
何kgあるんだ、これ。
「結構美味しいですよ、浩之さん」
まぐまぐと肉にかぶり付きながら言うマルチ。
お前も少しはこの状況に疑問持てよ。
「どうやって焼いた? つかどっから材料仕入れた?」
このぶ厚い肉にどうやって火を通したのだろう。
しかもこんな代物を扱っている肉屋など存在するまいに。
「7研に電話したら何とか調達して来てくださいました。焼く時は庭先で古来
からの伝承通り、焚き火でぐるぐる回しながら」
な、7研か……。
何だかあそこが出所なら納得しちまうぜ。
「ま、まぁ……食う前に色々言うのも何だし、とりあえず食ってみよう」
俺は何の肉かがすげえ気になったが、マルチの真似をして肉にかぶり付いた。
がぶっ。
「む」
肉汁が非常にジュースィ。
表面はかりっと焼けているが、中は半レアでなかなか俺好みの焼き加減だ。
……いや待て、半生ってことは種類によっちゃすげえヤバいんじゃないか?
「なぁセリオ、これ……腹壊したりしないよな?」
「あ……はい、大丈夫だと思いマス」
セリオは思いっきり目線を逸らしながら言った。
「『あ』とか『思う』って何なんだよ!」
「お口に合いませんでしたか?」
「あ、いやそんなことは」
むしろ美味くて癖になりそうだぜ。
それが逆に俺の不安感を募らせることにも繋がっているのだが。
「ふふふ……ではたっぷりご堪能くださいな」
「お、おう」
もうこの際何の肉かはどうでもいいやぁ。
食った後のことは、食った後に考えよう。
ってなわけで、今はとりあえず目の前の貴重な逸品にかぶり付くのであった。
<……続きません>
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