へなちょこセリオものがたり

その149「電話器の秘密」








 ぷるるるるっ、ぷるるるるっ。

「お、電話か?」

「はい、そのようですネ」

 セリオが立ち上がり、玄関先の電話器へ……行くのかと思ったら、俺の方に
歩いて来た。

「ん?」

「どうぞ」

 セリオは耳カバーをぱこっと外し、俺に渡す。

「あ?」

「受話器になっております。どうぞお使いください」

「お、おう」

 戸惑いながらもセリオのように耳にそれを装着すると、聞き覚えのある声が
聞こえて来た。

『やぁ、藤田君。元気かい?』

「何だ、おっさんかよ」

『実はその耳カバーは7研直通のホットラインになっていてねぇ、困った時は
いつでも使ってくれたまえ』

 相変わらずつまらない機能を付けるものだ。

「……まぁ、何かあったら連絡するわ」

『うむ』

 俺はセリオに耳カバーを返した。

「おっさんは別にして、いつでもどこでも電話使えるのは便利だな」

「いえ、これは電話と言うか子機ですが」

 セリオは無表情に耳カバーを装着する。

「む? では親機は何処ぞ?」

「親機ですか……使ってみます?」

「おうよ」

 左耳が子機で右耳が親機なんて言ったらぐーで殴る。いやマジで。

「では、ちょっと失礼して……」

 セリオは俺の膝の上にぽふんと座った。
 そして俺の耳元に唇を寄せて。

「ぷるるるる、ぷるるるる」

「うひゃおう」

 生息吐息が、俺の耳の奥を直撃する。
 俺は堪らず、びくんと身体を震わせる。

「あ、親機は口が受話側なのデス」

「そ、そのままで喋らないでくれえ」

 ぞくぞくする快感に耐えられない。
 どうにかしてセリオの身体を押しやろうと思っていたら。

「送話側は……うふふ」

 セリオはぽそぽそとささやくことを止めてくれず。
 俺の唇に、人差し指をぴとっと当てて。

「実はこの指先にマイクがあるのデス」

「へ、へぇ……知らなかったぜ」

 いかんな、実にいかん。
 こんな電話では、嬉しいことにまともに話せないではないか。

「でも実用的じゃぁないな」

「ええ、真っ赤な嘘ですからネ」

 がびーん。

「こっ、このぉ!」

 如何なセリオと言えども、この体勢からは逃げられまい。
 と、セリオの身体を抱きしめて。

「お返しだ……俺が親機になってやるぜ」

 言いながら、セリオの耳カバーを外す。

「ああっ、そんなご無体な」

 そんなことを言いつつも、セリオは何だか嬉しそう。
 こいつ、構って欲しかったんだな。






 そんなわけで、セリオが降参するまで耳への責めを続けた俺なのだった。






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