へなちょこセリオものがたり

その151「クライシス・イン・断水」








「断水?」

「ええ、回覧板が回って来ていまして」

「いつから?」

「もう始まっています」

 ぬう、俺が学校に行っている間に勝手に決めやがって。
 少しはこの俺に相談くらいしやがれ。

「ですが、お夕飯の時間には復旧するそうなのでご安心くださいな」

「おう、飯食えないんだったら水道局に殴り込みかけようと思っていたとこだ」

「まぁ穏やかではないですネ」

 お前がな。
 そう言ったセリオは、出しかけた馬鹿長い大砲を再び髪の中に戻した。

「……いや待て、まさか」

 だだだっと走り、ばむっとトイレのドアを開ける。
 そこには、丁度マルチが鎮座ましましていた。

「……水、流しちゃった?」

「はっ、はうはうはう」

 マルチは真っ赤になってしまって、何とも要領を得ない。
 仕方なくトイレの中に入り、貯水タンクを確認しようとしたら。

「ひーろーゆーきーさーん」

「ん?」

「女の子のお花摘みの最中に乱入するとは何事デスかっ!?」

 ずごん。






「悪かったって……だってさ、水流されてたら俺がトイレ行けないじゃん」

「むー、浩之さんはえっちっちーなのですー」

 ぷー、と頬を膨らませているマルチ。
 その頬はまだ真っ赤だった。

「だから悪かったってばよ」

 マルチを抱っこして、なでなですると。

「あふー、今回だけは許してあげるのですぅ」

 がびーん、結構お手軽に許してくれた。

「甘いデスね、マルチさん」

 む、そういやまだこいつがいた。

「あのような辱めを受けて……ああっ、浩之さんがここまで鬼畜だったとわ」

 よよよ。

 俺は手をぱたぱたと振りながら。

「いや、その件に付いてはもういいから」

「ええ、マルチさんは断水を知らずに水を流してしまっていたわけですが……
それは女の子のお約束と言うやつで、言わば条件反射」

「お前ら綺麗な水なんだろ? 何で流す必要があるんだよ」

「ですから、女の子のお約束デス……世間一般では常識ですが?」

 いや、音を誤魔化す為に水流すってのは知ってるけどな。
 今更俺達の間で、恥ずかしがることもないじゃん。

「とりあえず常識はいいから、俺がトイレに行けないこの状況をどうするかだ」

「……その辺で済ませてくればよろしいのでは? 男性なのですから」

 捕まるってばよ。
 とか言ってると、何だか尿意が込み上げて来たし。

「あーもう、便所の話してたら行きたくなって来たぜ! セリオ、残った時間
は?」

「はい、あと2時間程デス」

 我慢出来そうな長さではあるが、そう思って油断していると負けなんだよな。

「うー、小便だしこの際復旧するまで流さなくてもいいか!」

「「浩之さん、それは人として」」

 うがー、ダブル突っ込み。

「じゃぁ俺にどうしろと!?」

「実は解決案が2つあります」

 おお。

「1つ目は?」

「浩之さんが用を足して、私が流します」

「そ、そうか。マルチはさっき排水しちゃったもんな」

 こいつらの『綺麗な水』タンクの容量がどれくらいかは知らないが、セリオ
が言うんなら流せるんだろう。

「だうー! 恥ずかしいから言わないでくださいなのですー!」

 ぽかぽかぽかっ。

「ああっ、叩くと余計に尿意がっ」

「そして、2つ目ですが……ちょっとお耳を拝借」

 ぼそぼそっ。

「……それで行こう。むしろお願いします」

「むー!? 2人だけで愛の睦言を交わすのはズルいのですぅ!」

「違うって、セリオが画期的な解決策を考えてくれてな」

「うー……浩之さんが妙に嬉しそうなのが納得行きませんが、この際仕方ない
のですぅ」

 マルチが納得したところで、早速行こうかセリオ。

「うし、んじゃ……」

「はい」






 その後。

「ぷふー、すっきりしたぜ」

「うにゅう、何故にリトルジョーに5分もかかったですかぁ!?」

「いえ、色々とありまして」

 セリオは口元をティッシュで拭いながら言った。

「いやぁ、本当に色々とあってな」

 つーか、新しい世界だった……また頼もうっと。

「あー! 何か2人ともすんごく満足した顔してますぅ!」

「まぁまぁ、抱っこしてなでなでしてやるからさ」

 俺は心地よい開放感に包まれながら、マルチを抱っこする。

 そして、うっとりしているセリオと視線を交わし。
 お互い恥ずかしそうに目を逸らすのだった。






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