へなちょこセリオものがたり

その155「秘密の小瓶」








「…………」

「…………」

「…………」

 俺達3人は、居間のテーブルを囲んで悩んでいた。
 テーブルの上には、黒ガラスの小瓶が1つ置かれていて。

「……何だと思う?」

「いえ、それよりいつのものなのかが……」

「重要なのは、中身がどんな状態なのかだと思われマス」

 冷蔵庫の奥の奥から出て来た、謎の小瓶。
 濃い色ガラスのせいで、中身を外から判別することは出来ない。
 しかもラベルも貼られておらず、蓋にも何も書かれていない。

 謎。
 その言葉が俺達を支配していた。

「やはり開けてみないと……」

「いや待て、中身が大変なことになってたらどうする?」

「……こういう場合に限って、案外何でもなかったりするものですよネ」

 俺もそれを願うが。

 ことん。

「ん? お前ら今動いたか?」

「いえ」

「……あの、浩之さん……瓶が」

 ことん。

「動いてるー!?」

 途端にずざざっと瓶から距離を取る俺達。
 この中では一体何が起こっているんだろう。
 新しい生命でも誕生しているのだろうか。

「八竜の衛星砲での滅却処分を提案しマス」

「わ、私は光にしてしまうのがいいかと……」

「……いや、俺は中を見てみたい」

 この沸き上がる気持ち。
 探求心、好奇心と言うやつだろうか。

 ことことんと動き続ける瓶に、俺はゆっくりと近付く。
 ごくりと息を飲み込み、瓶に手をかけて。

「浩之さん、お気を付けて」

 しゅたっ。

「あうあうあう」

 おろおろ。

 瓶を掴み、蓋をじわじわ回す。
 存外簡単に蓋が取れ、俺はその中を覗いて……。

 きしゃーっ。

「……ヒィ」

 きゅるるっ、と勢いよく蓋を閉め直して。
 窓を開けて庭に放り投げると、マルチとセリオに命ずる。

「マルチ、黄金ハンマー!」

「はいなっ!」

 ぱきゅ――――ん!

「マルチ、退け! 続いてセリオ、衛星砲!」

「……漆式・『虚空』」

 きゅどっ!

 眩い光が辺りを包む。
 手で目を隠して対閃光防御をしながら、俺はふぅと溜め息を吐くのであった。






「で、中には一体何が?」

「知りたい知りたいのですぅ〜」

「ふっふっふ、秘密」

 俺は○ルピスを飲みながら、ソファーに腰を下ろす。
 冷や汗が一筋流れていたが、それをぐいっと腕で拭った。

 あれは見ない方がいい、知らない方がいい……俺の心の内に留めておこう。

「「浩之さん〜」」

 ぐいぐいと腕を引っ張られるが、言うわけには行かない。
 つーか今晩夢に出そうで怖い。

「なぁ、お前達」

「「はい?」」

 俺は庭に明いた衛星砲の大きな穴を見ながら。

「冷蔵庫の中はいつも整理整頓しておくこと。いいな」

「はい……ですが、あの瓶の中身は?」

「それを聞かないことには始まらないのですぅ〜」

 しつこい奴らめ。

「さ、嫌な汗かいたし風呂にでも入るかな」

「「あ、ご一緒します」」

 うし、誤魔化せた。
 お手軽な奴らだぜ。






 そんなわけで。
 例の小瓶の中身は、永久に俺の記憶の片隅に追いやられることになった。






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