へなちょこセリオものがたり
その156「編み編み」
あみあみあみ……。
「なぁ、セリオ」
「はい?」
あみあみあみ……。
「よくそんな器用に動くよなぁ、その手」
「ええ、常に最新型マニピュレーターに交換されていますから」
そんな話してるんじゃねぇ。
「いや、動きに無駄がないと思ってさ」
「はい?」
「マルチだったら多分に無理だろ、編み物編むなんてさ。やっぱセリオだから
出来るんだよな」
「コメントは避けますが……確かに優雅かつ繊細で流麗に動いているとの判断
は出来ますネ」
自分で言うな。
「で、何編んでるの?」
「ふふふ……秘密デス」
「ちぇ」
でも、セリオは思わせぶりにちらちらと俺の方を見る。
多分、俺の為に何かを編んでくれているのだろう。
思わずなでなでしたくなる気持ちを抑えながら、俺はその場を離れた。
「なぁマルチ、編み物って興味あるか?」
セリオの邪魔をしないように、自室でマルチを抱っこしながら問う。
「はい、随分ありますけど……何分不器用なもので」
「そっか」
なでなで。
「マルチは可愛いからな、不器用でも俺が許す」
「はーいー♪」
だきっ。
「不器用だけど不器用なりにさわさわするのですぅ」
さわさわ。
「おいおい、こんな明るいうちからお求めかぁ?」
「うふふっ、不器用……ですから」
確かに不器用の名に恥じない大胆ぷりだ。
「そんなにさわさわすると、俺の象さんも黙ってないぞぉ〜?」
「はや〜ん、ぱお〜んですぅ♪」
俺の象さんは、今日も元気だった。
「ふぅ……やっと完成デス」
だらーんとなったマルチを抱きかかえながら、俺は居間へ向かう。
そこでは、セリオが満面の笑みで俺達を迎えてくれた。
「浩之さん、遂に完成しました」
「おお」
マフラーか、セーターか。
どちらにしても、女の子からの手編みの贈り物ってのは嬉しいもんだ。
さぁセリオ、俺を喜びの境地へ誘ってくれ!
「マルチさん、頼まれていた毛糸のぱんつが出来ました」
「……あ?」
「ありがとうございますぅ」
と、マルチは俺の脇から抜け出してセリオから毛糸ぱんつを受け取る。
「これで冷え症対策もばっちりですねっ」
「ええ、私の分もばっちりデス」
……はい?
「あの……俺に何か編んでくれてるんじゃなかったの?」
「はい?」
セリオは不思議そうな顔をして、俺を見つめる。
やがて、ぽんと掌を叩いて。
「ああ、浩之さんも毛糸ぱんつが欲しかったのですネ」
「違――――う!」
だだっ!
「あ……」
わかっちゃいない。
あいつはわかっちゃいないんだ、俺がどんな気持ちでいたか。
と、俺が自分の部屋に走り込むと。
さっきまでマルチと戯れていたって言うのに、知らぬ間に机の上に何か包み
が置かれていて。
「ん?」
がさがさっ。
「……セーター?」
しばらく、ぽかーんとそれを見つめていた。
ちょっとして、階段を上る音が聞こえて来て。
「浩之さーん」
ちょっと自分が恥ずかしくなった。
そうだよ、セリオが俺だけ除け者にするわけないじゃん。
「おうよ!」
俺は元気よく返事をして、セリオの編んでくれたセーターに袖を通す。
そしてドアを開けた先には……心底嬉しそうに微笑む、セリオの姿があった
のだった。
<……続きません>
<戻る>