へなちょこセリオものがたり

その158「振り向けばアフロ」








「あー、ひりひりするなぁ」

 その原因は日焼けだ。

「大丈夫だ……いや大丈夫じゃないかも」

 ぺたぺた、とセリオが肌に化粧水を塗ってくれている。
 そこだけひんやりとして、ちょっと気持ちいい。

「全く、ぱんつ1枚で日向ぼっこなんかするから……」

「言うな、結構あれはあれで開放的で気持ちいいんだから」

 そう、まるで海で甲羅干ししているかのような。

「もう、ご近所の視線が痛かったデスよ……」

「お前らだって水着姿で水かけ合って遊んでたくせに」

 どちらかと言えば、そのせいで視線が集まっていたのだと思う。
 とか言ったら。

 ぐりっ。

「痛え」

「嫌ですわ、あれは浩之さんが雰囲気を満喫出来るようにと……」

「文句言う割には推奨してたんじゃねぇか」

 ちょっと赤くなってはいるが、今日1日でそこそこ日焼けした。
 これで俺もサマー☆ボーイズの仲間入りだぜ。

「って、お前らは日焼けしてないのな」

「ええ、メラニン色素など持ち合わせていませんし」

 ううむ、それもそうか。

「でもな、日焼けしたセリオなんて見てみたいなぁ」

「あら、浩之さんのお好みでしたら日焼けして参りますよ?」

「おお、それは是非」

 健康的な小麦色に焼けた肌。
 色白で清楚な感じもいいが、それもそれで行けると思う駄目人間な俺。

「では焼いて参ります」

「おう」

 セリオは俺の手当てもそこそこに、部屋を飛び出して行った。






「只今戻りました、浩之さん」

「おう……って、あんた誰?」

 墨汁を垂らしたように真っ黒な肌。
 髪はウェーブどころかくるくるアフロで、一体どこの誰だか検討も付かない。

「嫌ですね、セリオですよ」

「俺のセリオはそんなソウルフルな格好してねえ」

「信用していただけないのでしたら、目からビームでも出しましょうか」

「いや、遠慮する。口からバズーカも勘弁な」

 どうやらセリオらしい。

「で、如何ですか? ブラザー」

 ブラザーって言うな。

「やり過ぎ」

「がびーん」

 って言うか『焼く』ってレベルじゃないだろ、それは。

「何かこう、うっすら日焼けした水着跡なんか期待してた俺が馬鹿だった」

「あら、水着跡もばっちりですよ?」

 セリオはぺろんと着衣の肩をはだける。
 ……真っ黒と真っ白の綺麗な対比だ。俺の期待していたような萌える水着跡
なんかじゃなかった。

「何か不自然過ぎて気持ち悪い。すぐ戻して来い」

「ああもうブラザーってば、どうしてこうもわがままなのでしょう」

 言いながら、セリオはカツラを脱ぐ。
 アフロが取れると、いつもの緋色の髪がさらっと流れ落ちる。

「何だ、本当にアフロにしてたわけじゃないんだ」

「ええ、一応私の髪は放熱フィン・各種センサーも兼ねていますから」

 いやでもアフロでもこいつなら出来そうな気がする。

「で、その性格の悪い冗談みたいな肌の色は?」

「あら、これでしたら」

 セリオは自分の手の甲の皮を引っ張る。

 ぺりっ。

「おお」

「軽くコーティングして来た次第デス。お肌パックみたいなものですね」

「いや、その下の淡い小麦色は……?」

「ええ、こちらはきっちりコーティングして参りました」

 俺はぺりぺりとセリオの真っ黒コーティングを剥いで行く。
 勿論、服も下着も脱がせて。

「むおお、何だこの水着跡みたいな日焼け跡は!」

 肩口から胸にかけての白い線。
 胸元はほとんど白。
 そして真っ白なビキニライン。

「はい、水着を着てコーティング処理を受けましたか……ら?」

 むはー、むはー。

「あの、浩之さん?」

「し、辛抱たまらーん!」

 だきっ。

 ぺろぺろぺろ。

「あ、あの?」

「こっ、この白いとこが! 白いとこがぁぁぁ!」

 ぺろぺろぺろ。

「ああっ、玄関先でなんてご無体なっ」

「んじゃ台所で! 冷蔵庫の前で!」

 俺はセリオを抱きかかえ、台所へ走る。
 何故冷蔵庫前なのかと、セリオは首をひねっていたが。

「おらぁ! ○ルピスの白さを思い知れぇ!」

 ぱたぱたたっ。

「あひぃ、冷たいですっ」

「はぁはぁ」

 薄く焼けた肌に、カ○ピスの真っ白な流れ。
 それは薄茶と白との責めぎ合い。俺は最早我慢ならなかった。

「なーめーるー!」

 ぺろぺろぺろぺろぺろ。

「あっ、そこを舐めるとわかめ○ルピス……っんぐっ」

 セリオのうるさい口は、カルピ○の瓶を押し込んで塞ぐ。
 誰にも今の俺の邪魔なんかさせない。

「はっはっは! ははははは――――っ!」






 その夜、俺の家の窓には。
 何本もの瓶をお手玉しながら暴れる、俺のシルエットが映っていたと言う……。






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