へなちょこセリオものがたり

その159「えこひーき」








「ただいまぁ」

「おっかえりなさーい☆」

 だだだだだっ!

「来たな……おらぁ!」

 どごっ。

「にゅふふふ、今日も元気でお帰りなさいですぅ」

 俺に豪快なタックルをかましながら、マルチが不敵に微笑む。
 それを片手で受け止めながら、俺もまた不敵に笑う。

「ふっふっふ、俺を倒すにはまだまだだな」

 じりじり。

 力と力の均衡。
 それを崩したのは、セリオの一言だった。

「あら、お帰りなさい浩之さん。○ルピスをご用意いたしますネ」

「おう、さんきゅ」

 ぺいっ。

「はぶっ」

 ごすっ。

 マルチをあしらうのは簡単だった。
 単に奴の力のベクトルを、ちょっと違う方向に受け流してやればいいだけ。
 それだけで、マルチは廊下の壁に激突した。

 まぁそのうち復活するだろう。
 てなわけで、俺はほいほいとキッチンへ向かうのであった。






「どうぞ、浩之さん」

 ことり。

「おう」

 コップもよく冷やしてあったのだろう、握った途端に痛い程の冷たさが感じ
られる。
 からん、と音を立てて崩れる氷。そして恐らく1:2で混合された○ルピス。
 ちなみに2杯目は1:1、3杯目は1:0つまり原液だ。
 これはお茶が何とかと言う故事に倣って俺が指導した。

「ふう……美味いな、セリオのカ○ルピスは」

 からん。

「いえ、誰が作っても一緒ですよ……」

「そんなことはないぜ、俺にはわかる。これにはセリオの気持ちがこもってる
からな」

 ごくごくと飲みながら、セリオに微笑みかけると。
 彼女は嬉しそうに恥ずかしそうに、ちょっとだけ微笑んだ。






「にゅう、私がカルピ○番の時はあんなこと言ってくださらなかったのにっ」






 あー美味かった。
 と、3杯の○ルピスを飲み終えた俺は自室へ向かう。
 が、その途中の階段でマルチが通せんぼをしていた。

「浩之さんっ!」

「な、何?」

「先程の私とセリオさんとの待遇の違い、どう説明するですかっ!?」

「お?」

 いや、俺は別に2人を差別した覚えはない。
 むしろマルチの方がお子様だから、セリオより余計に可愛がっているような
気がするのだが。

「マルチの気のせいだって、気のせい」

「だってさっきは私を壁に投げ飛ばしたですよっ!?」

 そりゃお前、あんな勢いでタックルかまして来た奴が言うセリフかよ。

「そうだな……もっとゆっくり走って来てくれれば、優しく抱き止められるん
だけどな。タックルにだけ神経を集中し過ぎて、抱き止められる範囲を超えて
しまっていたからな……」

「うう、私が悪いと申されるのですかぁ?」

「その通り」

 ぽふぽふと走って来てくれるのならば、俺もぽふっと抱き止めるだろう。
 だが殺気を身にまとい肩口から特攻されれば、俺でなくとも避けるだろう。

「ううっ、それでは私は一体どうすれば……」

「そうだな、とりあえず……」

 もうすぐそこに俺の部屋がある。
 今回のところは、そこでゆっくり説明してやるとするか。

「ほらほらマルチ、説明してやるからこっち来い」

「うにゅう」

 がっくり肩を落とすマルチに、俺は優しく微笑みかけて。
 背中を押してやりながら、俺の部屋へと向かう。
 さ、マルチが妙なこと考えないように可愛がり倒すとするか……。






「……私にはあんなに優しくしてくださったことがないのにっ!」






 ぽうっ、と足取りもおぼつかないマルチを抱っこしながら部屋を出ると。
 今度はセリオが部屋の前で仁王立ちしていた。

「浩之さん、お話が」

「お、おう?」

「先程のマルチさんとのやり取りを見せていただきましたが……これは明らか
なる贔屓だと思われマス」

 うわ、あちらを立てればこちらが立たずかよ。

「で、セリオは何が不満なんだ?」

 俺は溜め息を吐きながら問う。
 と。
 セリオは頬を赤く染めながら、ちょっと俯いて。

「わ、私にも……その、お部屋でゆっくり説明をしていただきたく……」

 結局マルチと同じかい。

「うーん、俺ってそんなに2人の扱いに差があったかな?」

「そんなことはありませんが……お部屋でじっくり話し合いましょう、うふふ」

「そ、そうだな」

 ぴとっと俺の腕に抱き着くセリオ。
 勿論俺に断る気も理由もなかったことは、言うまでもあるまい。






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