へなちょこセリオものがたり

その2「その手に掴むモノは」








 ぽにっ、ぽにっ、ぽにっ……。

 ん?
 またマルチがにくきうパーツでも着けてるのか……?

「浩之さんっ! 以前は敗れましたが、今度は一味違いますよっ!」

「ほう……面白い、受けて立とうじゃないか」

 っていうか、是非お相手させてください。

 以前マルチからにくきう攻撃を受けた際、俺は精神崩壊に至った。
 泣き叫ぶマルチを追い回し、その身体……主ににくきうを弄んでしまったの
だった。

 くそっ、今度こそマルチをあんな目にあわせはしない!
 今度こそ……今度こそ、俺は!
 マルチに勝つ、自分にも克つっ!






「では、行きますぅ……た――――っ!」

 ぽにぽにぽにぽにっ!

 こ、ここだ……。
 ここで、マルチの手を……あの愛らしいにくきうを見てしまったが為、前回
は不覚を取ったが……。

「ふっ、にくきう破れたりっ!」

 そう……要は、見なければいい話だっ!

 俺はすっと目を閉じると、全身の感覚を総動員してマルチとの間合いを掴む。
 そう、それは俗に言う『心眼』にも似ていたかもしれない。

「なっ……何ぃですぅ!」

 ……緊張感のない驚き方だなぁ。

 って、マルチはすぐ傍まで迫っていた。
 俺はマルチがその腕を振り上げたのを感じ、身をひねって来るであろう攻撃
をかわ……そうとした。
 だが。

 ぽにっ。

「うを」

「あ……当たりましたぁ!」

 そ、そうだよな……誰でもそんな真似が出来たら、苦労はしないよな……。

 ぎんっ!

「わ〜い、当たりま……し……たぁ……」

 マルチは自分の攻撃によって起こった、俺の内面の変化を感じ取ったようだ。

「マぁ、ルぅ、チぃ……うぉぉぉん!」

「ひゃぁぁ〜! 浩之さん、また壊れちゃったですぅ〜」

 ぽにぽにぽにっ……。

 ばたばたばたっ……。

 今回も技をあっさり破られたのがショックだったのか、マルチはあっさりと
拘束されて。

「あ……あうあう……浩之さんが変ですぅ〜」

「こ……このぷにぷにが悪いのかっ!? こうしてやるこうしてやるこうして
やるぅ〜っ!」

 で……俺は我に戻るまで、マルチのにくきうを堪能したのであった。
 マルチは、嬉しそうな恐ろしそうな……複雑な表情だった。






「……なるほど……にくきうがポイントなのですか……」






 風呂上がり、俺は日課代わりに牛乳を飲んでいる。
 で、今日も今日とて一気飲み。冷えたのを一気飲みするのは健康上よくない
のだが、好きなんだからいいじゃん。

「さて、寝るか……」

 …………。
 ……あれ?

 いつもならここで、マルチが走って来るはずなのに……?

 ぽにっ……ぽにっ……ぽにっ……。

 ……む?
 俺の背後で何やら物音が……ふ、マルチめ……不意打ちかけようって腹だな?
 ならば、迎え撃つのみ!

「甘いわぁ!」

 俺は振り向きざまに、マルチの胸の辺りめがけて掌底を放った。

 もみん。

 あ……あれ?
 マルチにしては、妙に手応えが……よ過ぎる。

 もみもみ……。

「……さすが……ですね」

 なっ……セリオだったのかっ!?

「わ、悪ぃ! まさかセリオだとは思わなかったからさ……」

「……いえ。私が甘かったのですから」

 もみもみ……。

「……ところで、何でまたこんなことを?」

 っていうかいい加減に止まれ、俺の手。

「んっ……マルチさんと浩之さんが、楽しそうに戯れていたのを見たら……私
も、やってみたくなりまして……んんっ」

 ……ってことは……?

 もみもみ……。

「長瀬主任から、私専用のものを……送ってもらいました……」

 息も絶え絶えにそう言うと、セリオは俺の顔を両手で挟み。

「……どうぞ、浩之さん」

 ぱふっ。

「おお……うおおおおおっ!」

 ぞぞぞぞぞ……っ!

 背筋を駆け抜ける快感。
 それは、マルチのにくきうの比ではなかった。

「せ……セリ……オっ、これはっ……?」

「これが、私のにくきう……過去のデータを元に、新開発の素材を用いて理想
的なにくきうをモデリングしています」

 ……見ると、セリオは猫耳……マルチが犬耳だから、対になってるのか?

「浩之さん、1つだけ伺いたいことが」

「な……何だ……?」

 既に俺は立っていることすら出来ず、床に仰向けに倒れ込んでいた。
 セリオは俺の腹の上にまたがり、未だに俺の顔をなで続けている。

 俺の手は無意識にセリオのにくきうブーツを触りに動いていて……違う意味
で、俺は身動きが取れなかった。

「大きな猫は……お嫌いですか……?」

 ぴたっと止まった、セリオの手。
 徐々に近付いてくる、セリオの顔。

「今……好きになった……」

 お、俺は……俺って奴は、何て弱い人間なんだ……。

「ん……」

「……んふっ……はぁ……っ、浩之さん……」

 そして、数刻を過ごし。
 しばらくしてから、2人して俺の部屋へ。
 マルチが既に、何らかの方法で眠らされていたのには驚いたが。
 今晩初めて、俺達3人は一緒に眠ったのだった。






「……やっと、『家族』になれた気がします」

「……馬鹿。とっくに家族だっての」

「……はい」

 左の胸がじわじわと濡れて来たように感じるのには、気付かないふり。

 右腕にマルチ、左腕にセリオ。
 そっと身を寄せてくるセリオも、安らかな寝息を立てているマルチも。

 ……2人とも、俺の大事な家族だぞ。
 そう……2人とも、俺の大切な……。






<……続きません>
<戻る>