へなちょこセリオものがたり

その9「縁の下の力持ち」








 ……お、セリオ。
 買い物帰りかな?

「おーい、セリオ〜」

「……浩之さん。ただ今お帰りですか?」

「おう、見ての通り寄り道中だ」

 偉そうに言うことじゃないけどな。

「1人で買い物か? 荷物貸せよ、俺も持つから」

 両手に、近所のスーパーの袋を提げて。
 辛そうには見えないけど、でもやっぱり持ってあげたくなってしまう。

「……いえ。持てますから、大丈夫です」

 むぅ、意地っぱりな奴め。






 結局、俺には荷物を持たせてくれず。
 自分の学生鞄をぶらぶら振り回しながら、セリオと並んで歩いていると。

「……浩之さん」

「ん?」

「何故、私などに優しくしてくださるのですか?」

 何故……?
 何故って、何だ?

「理由、聞きたいか?」

「ええ、是非」

 真摯な瞳で俺を見つめ。
 いつしか止まる、歩み。

「ない」

「……は?」

「理由なんか、ない。セリオの役に立ちたいと思っただけだ……それじゃ不満
かな?」

「……いえ」

 セリオがそう言ったのを確認して。
 俺は、もう一度セリオの方に手を伸ばす。

「なら、持たせてもらえるかな?」

「……はい。お願いします」

 がさっ……。

 セリオは片方の買い物袋を差し出して。
 俺は、それを受け取り……。

「お……おおっ!?」

 ずんっ……。

 お、重い……。
 こんなの、顔色変えずに持って歩いてたのか?

 っていうか……何でこのビニールの袋が裂けないんだ、おい?

「……高結合凝集ポリマー製ですから、裂ける心配はありませんよ」

 ニヤリ。

 お……おーい。
 ただのスーパーの袋じゃなかったのか?

 ちっ……よく見るとこれだけのものを入れているにも関わらず、全く延びて
いる様子もないぜ。
 っていうか、わざわざ用意したのか? ご丁寧に、横に店のロゴまで入れて
から……。

「な、なぁ……何を買い込んだんだ? こんなに」

 く、くそう……いらんカッコ付けするんじゃなかった。

「缶詰を、入るだけ入れてあります」

 何? ちょっと待て、これって……。

 がさり。

 袋の中身をちょっと探ってみると。
 袋の形から缶詰だとわからないように、烏賊の薫製やら煎餅やらも沢山つめ
込んであった。

 ぬぅ……俺が手伝うと見越しての、嫌がらせカモフラージュかっ!?

「そ、そっちには……?」

「お刺し身とお野菜と、卵が。ふぅ……そちらを浩之さんが持ってくださって、
助かりました」

 ……薄ら笑いを浮かべながら言うのは、やめろ。

 くそう……俺も男だ、一度言ったからには引っ込んだりしないぜっ!
 この缶詰、家まで見事持ち帰ってやるっ!

「ご無理はなさらないでくださいね……くすっ」

 『くすっ』って何だ、一体何なんだぁぁぁぁっ!






 ごっとん。

「や、やっと着いた……」

「お疲れ様でした。おかげ様で助かりました」

「お、おう……どういたしまして」

 がくっ。

 あ、ああっ……指に付いちゃいけないような色の痣が。
 っていうか指先、世にも不思議な色になってるぅ。

「あーっ! お帰りなさい、浩之さんっ! セリオさんもご一緒だったんです
ねっ」

 ぱたぱたぱた……。

「マルチさん、そこの荷物を戸棚にお願いします」

「はいー☆」

 セリオはそう言うと、台所へ向かった。

 って……それ、マルチが持てるようなもんじゃ……。

「セリオさん、今晩の献立は何にするんですかー?」

 むんず。

 ぱたぱたぱた……。






 …………。
 って、ねぇ……お2人さん?

 2人とも、それ持ってる姿勢が崩れるような素振りもないんですけど……。
 何でそんなに軽々と持っちゃうかな、ボク不思議に思っちゃうよ。






 ……俺って、役立たずなのかなぁ。






<……続きません>
<戻る>