へなちょこセリオものがたり

その10「幸福のカタチ」








「なぁ、セリオ」

「……はい?」

「俺といて、幸せか?」

「……何故、そのようなことを?」

 ……時折、不安になる。

 セリオが、普段気持ちを表すことは少ない。
 それは俺にとっていつものことであり、不安を生み出す要因でもある。

 時々セリオが微笑んでくれる時は、とても嬉しい気持ちになる。
 逆に……何も言わない時には、とても不安な気持ちになる。

 『マルチのように』とは、言わない。
 いや、言えない。

 セリオとマルチは、全く別の心の持ち主なんだ。
 それぞれにいいところがあり、悪いところがある。
 そして……その双方に、俺は惹かれている。

 でも、相手の気持ちがわからないんじゃあ……。

「……私に何か至らないところが……?」

「違う。セリオは一生懸命にやっていると思う……だけど、俺は不安なんだ」

「……私には、わかりません」

 セリオはそっと、俺の頭を抱き。

「なぁ。いきなりとは言わない、少しづつでいい。セリオの『気持ち』、俺に
伝えてくれないか……?」

「気持ちを、伝える……」

「例えば、今のセリオの行動。俺を抱きしめてくれた、その気持ち。……俺は、
知りたい」

 わがままか。
 自分に自信がないのか。

 セリオを困惑させるだけかもしれない。
 セリオを悲しませるだけかもしれない。

 でも。
 でもな……。

「この気持ち……何と言えばいいのか、わかりません」

「知ってる言葉でいいんだ……どんな感じなんだ?」

「『悲しい』『寂しい』……でも、『嬉しい』……胸の辺りが、何だか苦しい
ような気がします」

 きゅぅっと、セリオの腕の力が強められ。
 自然、俺の頭はセリオの胸に押し付けられ。

「セリオ」

「はい」

「お前……何でそう感じるのか、わかるか?」

「いえ」

「それはな……お前の『心』なんだよ」






「これが、心……?」






「いや、それは違う」

「……は?」

 得心のいかない顔だな。
 そうだ、そう思うだろうな。

 でも、お前は間違ってる。

「それ『も』、心なんだ」

 心のカタチは、一つじゃない。
 色も大きさ、重さや深さも千差万別だろう。

 強さや脆さ。
 そして、その想い……。

 それらをひっくるめて、『心』。
 俺は、そう思う。

「セリオ……俺のこと、どう思う?」

「……お役に立ちたいと思います」

「それだけ?」

「……ずっと、傍にいたいと思います」

「……なら、俺と一緒だな」

「……はい?」

「俺も……セリオのことが、好きなんだよ」






「あ、あの……」

「ん?」

「今の言葉……本当ですか?」

「嘘だと思いたいのか?」

 ちょっと、意地悪。
 でも、セリオは嬉しそうだ。

「い、いえ……いえっ!」

 俺が身を起こすと。
 セリオはちょっと不安そうに、俺に腕を伸ばす。

 でも、俺がセリオを抱きしめると。
 その腕は、俺の背中に回されて。

「浩之さん……」

「ん?」

「嬉しいです。とても、嬉しいです。何と言えばいいのかわかりませんが……
とっても、暖かい気持ちです……」

「俺も一緒だ……『幸せ』ってやつかな」

「これが」

「これも、だ」

「はい♪」

 ……泣け。笑え。
 嬉しさも、寂しさも。

 全部俺が、受け止める。

 だから、だから……。






「浩之さん」

「ん?」

「一つ、伝えなければいけないことが」

「んん?」

 な、何だよ……急に改まりやがって……。

「……また、浩之さんに恋をしてしまいました」

 ……ふーん。
 ……って。

 な、何ぃ!?

「以前にも、こんな気持ちになったことがあります。マルチさんと一緒にいた
浩之さんを見た時……とても、優しそうな浩之さんを見た時」

「…………」

「あの時、あなたの傍にいたいと思ったのです」

「そ、そうか……」

「私、変でしょうか? それからというもの、気が付いたら浩之さんをサーチ
してしまってました……恐らく、『恋』という言葉が最も適切……」

 ……一目惚れ、ってやつか……?
 まさか、自分がされるとは思ってもいなかったが。

 ぎゅっ。

「……あの、浩之さん?」

「悪ぃ……何か俺、今すっげぇ嬉しくってさぁ……」

 セリオが、それを俺に伝えてくれたことが。
 そして、今セリオがここにいてくれることが。

 そう……これも、幸せ。

「ありがとな」

「…………」

 ずっと、ずっと。
 それからしばらく、何も話さなかったが。
 セリオの暖かい気持ちを、沢山感じていた。

 でも。
 俺の気持ち、伝わっただろうか。
 セリオに、伝えられただろうか。

 ……駄目だな。
 ことある毎に不安になっちまう。

 でも……いや、だから傍にいる。
 だから、傍にいてくれる。

 互いの気持ちを感じ合う為に。






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