へなちょこセリオものがたり

その13「自然を大切にねっ」








 ぱちぱち、ぱちっ……。

「お? 何してんだ、セリオ?」

「……家計簿を付けようと思いまして」

 ほう、家計簿……。
 自慢じゃないが、今まで丼勘定だったからな……そういうもので無駄を発見
出来れば、色々生活費が節約出来るかもしれないな。

「……で、算盤なんか使ってるのか?」

「ええ。暗算は間違いの元ですから」

 ……お前の場合、そんなの使うより暗算の方がいいと思うが。
 まぁ、いいか。

「そんじゃ、何か無駄な出費があったら教えてくれよ」

「はい、わかりました」






「浩之さん」

「……お? 何だ、セリオ?」

「家計簿、終わりました」

「おっ、それで?」

 セリオは持って来たノートをぱらぱらとめくり。
 とある項目を指差して、俺に見せた。

「この……ティッシュペーパー代が異常に多いです」

 …………。
 あっ。

「そ、それは……いいじゃん、お前もマルチもよく使うんだし」

 それが俺の、密かな楽しみでもあるのに。

「……タオルなどで代用する方が、多分に経済的だと思われますが?」

「……好みの差だな」

 っていうか、慌ててティッシュを引き抜く時のあの気分がいい。
 何枚も重ねて使う時の、あの感触がいい。

 ……俺、腐ってるかなぁ……。

「俺はティッシュの方が好きだ。他で経費削減しよう」

「……ですね」

 ぽっ。

 ……セリオも、結構気に入ってるんじゃん。
 ちょっと安心。

 かたん……。

「ん?」

「ひっ、浩之さん……不潔ですぅ!」

 だっ!

「ああっ! マルチぃっ!」

 ご、誤解だぁ……いや、そうでもないのか。
 ……っていうか、とにかく話をつけないと……。

「……大丈夫です。遠くへは行ってません……ほら、あそこ」

「……むぅ」

 部屋の戸口。
 柱の陰から、見覚えのあるモノが見えていた。

 本人は隠れて聞き耳を立てているつもりなんだろうが、バレバレだ。

「……どうしましょうか」

「俺に合わせてくれ」

 こくっ。

 ふ。
 甘いぞ、マルチ。

「さて……そこのティッシュの残り、どれだけあるかな?」

 言われてセリオは、俺の部屋のティッシュ箱の中身を覗き込み。

「はい……2回分ですね」

 何がどうなって2回分なのかは、秘密だ。

「そうか……どうする、セリオ?」

「と、言いますと?」

「マルチはいなくなっちゃったし、あと1回分はどうしようかなぁ」

「……是非、私がお相手を」

「そうか、よし……」

「だっ、駄目ですぅっ!」

 来た来た。
 マルチだって、好きなんじゃん。

「わっ、私……そのっ」

「……マルチ、不潔なんじゃなかったのか?」

「えへへぇ……よく考えたら、そんなことはないのではないかと……」

 ……結局、我慢出来なかったってわけだ。

「よし。それじゃあ、今日はみんなで一緒にしようかぁ」

「はい……それもいいですね」

「はいー! 私も頑張りますっ!」






 ……はぁ、はぁ、はぁ……。

「2人とも……なかなかいいぞ……」

 はむっ……。

「……恐縮です」

 はむはむっ……。

「浩之さん、お口がお留守になってますよぉ?」

「おお、そうだな」

 俺も、はむはむっと……。

「……私、もうこれなしでは生きて行けません」

「……私もですぅ」

 うんうん、ちょっと大袈裟だが。
 そんなにこれを気に入ってくれて、俺も嬉しいぜっ!

「うっ……2回分を3等分したから、もうなくなったぜ」

「私の分を差し上げますですぅ」

「ううっ……すまないねぇ、マルチ」

「それは言わない約束ですぅ」

 俺は、マルチからティッシュを1枚受け取り。
 それをゆっくり口元に運ぶと……。

 はむっ。

 くうっ……この感触、たまらないぜっ!
 意味もなく資源を無駄にしている罪悪感……それも相まって、堪らない快感
を感じさせてくれる。

「……明日、また沢山買い込んで来ましょう」

「うむ。そうしよう」

 床には、ただ口にくわえられる為だけに使われたティッシュが散乱し。

 はむっと。

 3人して最後のティッシュをくわえながら、悦に浸っているのだった。
 ……結構気持ちいいんだぞ、コレ。






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