へなちょこセリオものがたり

その15「よい子は真似をしないでね」








「『ドリフト』というものをご存知ですか?」

「はい? 何ですか、それは?」

「その名の通り、『ドリル』と『ふともも』が合わさったものです」

「なるほど……」

「浩之さんは、我々のふともも……お好きですよね?」

「はい、たまに意味もなく触るのがお好きですよね」

「ドリルも、なかなかお好きですよね?」

「はい、あれを着ると必ずごろごろ転がされちゃうんですぅ」

「なら、その2つを組み合わせれば……」

 ご、ごくっ……。

「あ、合わせれば……」












「ただいま〜」

「……お帰りなさい」

 ぱたぱたぱた……。

「あれ? マルチはどうした?」

「マルチさんは、ちょっと準備が……こほん、ただ今手が離せないものでして」

 ……準備?
 また何か悪さ考えてるな、こいつ。

「マルチはどこだ?」

「あっ……ですから、今は忙しいのです」

「いいからどこか言え」

「そっ、そのぅ……ああっ、急にめまいがっ」

 ふらふらっ。

「お、おい? 大丈夫か?」

「大丈夫じゃありません……すみませんが、介抱していただけますでしょうか」

「介抱ってお前、俺に出来ることが何かあるのか?」

「傍にいてくださるだけでいいんです……時々色んなところをさすっていただ
けると、尚のこと助かります」

 い……色々なところって……。
 『胸は苦しくないか?』とか、『ココが何だか、熱くなってないか?』とか
……うをう、正に色々って感じだぜ。

「お、おう……任せろ」

「ふふふ……」






「浩之さん、お帰りなさいですぅ☆」

「おっ!? ……おう、ただいま」

 突然聞こえたマルチの声にビビり、セリオの身体から弾かれるように離れた
俺。
 ちっ、もう少しだったのに……。

「……じゅ、準備はよろしいでしょうか」

 上気した頬を隠しつつ、乱れた服を直しながら。
 セリオはゆっくりと身を起こした。
 とか言う俺も、慌ててベルト締め直したりして。

 準備……?
 そういえば、さっきもそんなことを。

 …………。

 ああっ!
 見事セリオにハメられてしまったぁっ!
 あ、いや今の場合その表現は受動と能動どっちが適当かは別として。

「……後で続きをお願いします」

「あ、ああ」

 って言うか、言われんでもな。







「……で? その足は、一体何のつもりだ?」

「これが『ドリフト』なんですぅ」

 ……ほう。
 『ドリフト』が、その足の固有名詞だと言い張るつもりか。

「つまらん。却下だ」

「そっ、そんなこと言わずにぃ〜」

 マルチは俺の頭を両手でがっしり掴むと。
 そのまま引き倒すように俺を床に転がし、自分の両膝にその頭を乗せて。

「さぁ、行きますよっ」

「な、何が?」

 っていうか、しっかり押さえ付けられてて動けん。
 とか言う間に、ステレオで嫌ぁな音が聞こえて来てから。

 がきゅぃーんっ☆

「さぁっ! 私のふとももとドリルの感触、思う存分味わってくださいっ!」

「『さぁっ』て言われても……ドリルの方は辞退させてもらうっ!」

「ご遠慮無用ですっ! 柔と剛が奏でるハーモニー、その身にきっちり刻んで
もらうですぅっ!」

 っていうより刻み込むどころか、細切れに刻まれるぅぅぅっ!

「…………」

 ふいっ。

 ああっ、セリオ!?
 何で目を逸らすんだ、何でこの場から逃げるんだよぉぉぉっ!

 がきゅぃーむっ☆

「ひぃぃぃぃっ!」

「あらら、そんなに……」

 わ、わかってくれたか? 嫌なんだよっ!
 だから早くこいつを止めてくれえっ!

「……そんなに嬉しい悲鳴を……わかりました、浩之さん。たっぷりサービス
しちゃいますですっ☆」

 がきゅきゅきゅぃーんっ☆

「うひぇぇぇぇっ!」












「……浩之さん、大丈夫ですか?」

「……お前には、どう見える?」

「……ごめんなさい、まさかこんなことになるとは……」

 何でアレで死ななかったんだろう、俺……。

「あ、あの……続きは、いつ……?」

「…………」

 ぎろっ。

「……何でもありません」

 しゅん。

 ああ……生きてるって、素晴らしいな……。
 全身ぴくりとも動かせない現状、健康体のありがたさが心に沁みるぜ……。

 ……治ったら、2人とも泣かしちゃる。






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