へなちょこセリオものがたり

その17「ご飯でGOGO」








 明日から2日間、マルチとセリオの定期メンテナンスだ。
 今回はいつものとは違い、非主要部品にも総点検が入るらしい。

「……というわけで、私達は明日明後日おりません」

「途中帰って来て晩のご飯を作って行きますので、心配しないでください〜」

「おう。しっかりやって来いよ」

「2日も会えないのは寂しいですぅ」

 うんうん、俺も寂しいぜ。

 なでなで……。

「今晩は、なで溜めさせてもらいますぅ」

「……私もよろしいでしょうか?」

「おう、遠慮するな。腕が棒になる程してやるぜ」

 なでなでなでなで……。

「あうう、とっても気持ちいいですー」












 ……で。
 マルチの方を一生懸命なで過ぎた為に、セリオをなでようとする頃には疲れ
果てていた俺だった。

「それでは、私は先におやすみしますぅ」

「おう、おやすみだ」

 さて、今度はセリオの番だな。

 なで……なで……。

「…………」

「ん? どうした」

「……いつものような気持ちよさがありません」

 ……ううむ、やはりペース配分を誤ってしまったか。
 このだるだるっとした腕では、セリオを満足させるなでりは出来ないだろう。

「……ごめんな。ちょっと腕がもう限界近いみたいだ」

「では……私には、なしなのですか?」

「う〜ん……」

 それは、あまりにも可哀想だ。
 俺も出来ることならしてやりたいが、ただ手を頭に載せて揺り動かす程度の
ものだったら……そんなのはやらない方がマシだ。
 形だけのなでなでなど、したくないからな。

 ……そうだ。

「なでなでは辛いけどさ、これならどうだ?」

 ぎゅっ。

「あ……」

「帰って来たら、今度はセリオを先になでてやるからな」

「……はい」






 ……さて。
 今晩と明日は、久々に1人か。

 ま、とりあえず家に帰ってだらだらしてよう。






「ただいま」

 ううむ、やはりどちらの靴もないか。
 晩飯を作っておいてくれるって言うから、丁度家にいないものかと期待して
いたのだが。

「……あ」

 キッチンを覗くと、すでにそこには料理が数品並べられていた。
 何だよ、もう済んでたのか……。

 かさっ……。

 そこに1枚のメモ用紙を見つけた俺は、手に取って読んでみた。
 ……『明日はセリオさんが作りますぅ』。

 なるほど、今日はマルチの当番だったか。






 ……久々に1人での晩飯。
 折角のマルチの料理だったけど、何だか今日は味気ないように感じた。






「ふぅ……何かあれだよなぁ……」

 学校の授業も、あまり身が入らずに。
 重い足取りで家に向かう俺。

「ただいまぁ……」

 ……あれ?
 この靴は、セリオ?

「セリオ? もう終わったのかぁ?」

 もしかしたら、晩飯を作ってくれてるのかもしれない。
 何故か焦る気持ちを抑えつつ、キッチンへ向かうと。

「あれ……いない……」

 がちゃっ……。

 玄関の方で、ドアの閉まる音が聞こえ。

「……向こうか?」

 たったった……。

「……靴、なくなってんじゃん」

 あの靴は、確かにセリオのものだった。
 だが、何故俺が帰ってきた途端に逃げるように消える?

 ……嫌われてんのかなぁ。






「はぁ……」

 ちょっと沈んだ気分でキッチンに戻ると。

「うをっ」

 テーブルの上には、3個のカップ麺と割り箸とポットが置いてあった。

 かさっ……。

 例に漏れず、メモ用紙が傍に置いてあったりして。
 何々……『お腹一杯どうぞ。帰りは遅くなります』。

「何なんだよ、コレは」

 夕方には2人とも研究所から帰って来るもんだとばかり思っていたが。
 って言うか、何でカップ麺しかも全部同じやつを腹一杯やねん。

 顔も見せずに逃げるし、飯はこんなんだし。
 嫌がらせか……?

 って……わかった。
 あいつ、すねてるんだ。
 自分だけなでなでされなかったもんだから。

 それより……晩飯って、本当にコレしかないのかよぉ……。












 そして、夜も10時を回った頃。
 俺が居間で何気なしにテレビでも観ていると。

 がちゃっ、どたどたどた……。

「ただいまですー!」

「おお、帰って来たか」

「早く浩之さんに会いたくって、急いで来たんですぅ」

 たたたた……ぽふっ!

 おお、よしよし。
 愛い奴め。

「あれ、セリオは?」

 マルチの頭をなでようとした時、ふとセリオの姿がないことに気付いた。

「……あそこに隠れてますぅ」

 マルチが指差した先には、申し訳なさそうに俺を見つめるセリオがいた。

「……ただ今戻りました」

「おう、お帰り」

 俺はマルチの頭にかけようとしていた手を引っ込め、セリオをこっちに呼ぶ。

「ちょっと、こっち来い」

「は……はい」

 てててて……。

「……昨日のマルチの料理、美味かった」

「あ、ありがとうございますぅ」

 きゅ〜……。

 マルチ……ちょ、ちょっと苦しいぞ。

「今日のセリオの料理にも、期待してた」

「す、すみません」

「っていうか、期待してる」

「……え?」

「一昨日は悪かったな。代わりに今晩はサービスするからさ、機嫌直してくれ
よ」

 ちょっと不思議そうな顔で、頭をキッチンへ向けたセリオ。
 テーブルの上のモノが、全く手付かずで置いてあるのを見て。

「……すぐにお作りいたします」

「頼むぜ」

 ぽふっ……なでなで……。

「……はいっ!」

 嬉しそうに。
 楽しそうに。

 ……いい笑顔だぞ、セリオ。






 結構遅い夕食が終わった後。
 俺達は、何とはなしに寄り添って。

「俺さ……」

「はい?」

「お前らの作ってくれた飯じゃないと、何か食う気がしなくてさ……」

 別に、食えないってわけじゃないんだろうけど。
 出来ることなら、2人が作ってくれたものの方を食いたい。

「……私達が傍にいなくなったら、一体どうされるつもりですか?」

「ん? いなくなるつもりなのか?」

「……いえ。そのようなことは決して」

「なら、いいじゃん」

 俺は、マルチとセリオを抱き寄せて。
 2人を包むように抱きかかえ。

「……一緒にいような、ずっと」

「「……はいっ♪」」






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