へなちょこセリオものがたり
その19「必殺の」
「床さん、床さん、ふきふきふきぃ〜♪」
きゅっ、きゅっ。
「窓さん、窓さん、ぴっかぴかですぅ♪」
きゅきゅっ。
「お、今日も精が出るな」
「はいー♪ セリオさんと一緒に、今日は家中ぴっかぴかにするんですぅ」
「いつも悪いな。よろしく頼むぜ」
なでなでなで……。
「あ……が、頑張りますぅ」
よしよし。
一通り済んだら、ご褒美代わりにいつもより長く戯れることにしよう。
……って、セリオ!?
「……セリオはどこを掃除しているんだ?」
「んーと……今はお風呂場か、おトイレだと思いますぅ」
「そっか。ちょっと様子を見てくるぜ」
「はーい」
とたとたとた……。
……セリオを信用していない訳じゃない。
ただな……心配なんだよ。
「お〜い……」
がちゃっと、トイレのドアを開けた俺。
そこには。
「……入ってます」
「ぬを!? わ、悪い!」
ばたむ!
ううっ、ノックするのを忘れてたぜ。
これじゃあ俺、単なる変態さんじゃないか。
……って。
「こらぁ!」
がちゃっ。
「……いやん」
「『いやん』じゃねぇ! 便器磨いてる最中に『入ってます』なんて言うな!」
三角巾被ってゴム手袋してブラシ持って床にしゃがみ込んでるくせに。
『お掃除中です』とか、他に言い方があるだろう?
慌てたせいで、誤解しちまったぜ。
「ですが、事実です」
むぅ、ああ言えばこう言う……。
「しかし……浩之さんにそんな趣味があったとは思いませんでした」
「どんな趣味だよ」
「トイレに1人で入っている、うら若き美女の姿を覗くのがお好きだとは」
悪いが、俺にはそんな趣味はない。
っていうか、トイレに2人以上で入るようなことがあるのか?
「自分で美女って言うな」
「ですが、事実です」
……大した自信だ。
何も言い返せない自分が悔しいぜ。
ならば。
「……トイレ大臣」
「は?」
「今日はお前はトイレ大臣だ! ほら、そこっ! 黄バミが残ってるぞっ!」
「……口では勝てないものだから、嫌がらせを……」
う、うるせえ。
「……では、今すぐ除去します」
セリオは、床に置いてあった2本の洗剤を両手に持つと。
ちゅうぅ〜っ。
「な……何故2本?」
ちゅうぅ〜っ。
これでもかという程、2種類の洗剤を便器に注入するセリオ。
「まぁまぁ、ほら」
がしっ。
セリオはトイレ掃除用の手袋のまま、俺の頭をわしっと掴み。
「うをっ!?」
便器の上に頭を持って行かれ。
そして。
「がっ……ごふっ」
鼻を突く刺激臭。
っていうか……有毒ガスじゃん、コレ。
突然のことでわけがわからなかった俺は、まともに吸い込んでしまったので
あった。
「ま……混ぜるな危険……」
……がくっ。
「ふ……他愛もないですね」
その後、居間で何事もなかったように介抱するセリオの膝の上で目覚めた俺。
「あら……お目覚めですか、トイレ王?」
「……トイレ大臣なんて言った俺が悪かった」
その言葉に、満足そうに頷くセリオ。
それからしばらく、セリオが恐くて近寄れなかった。
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