へなちょこセリオものがたり

その22「料理は愛情☆」








 ……変だ。
 いつもと違う。

 セリオが、絶対変だ。






「なぁ、セリオ」

「……はい?」

 キッチンで、夕飯の仕度をしていたセリオ。
 俺は少し躊躇いながらも、声をかけた。

「あのさぁ」

「……もうすぐ出来ますから、我慢してください」

 違う違う。
 飯は我慢するけどな、男として我慢出来ないことが。

「そうじゃなくて、何で服がエプロン1枚だけなんだ?」

 後ろから見た分には、下着すら着けていないように見えた。
 鼻血が出そうになるのを堪えながら、セリオの答えを待っていると。

「……料理をする時には、エプロンをするのが世間の慣例だったかと」

「……いや、そういうこと聞いてるんじゃなくってさぁ」

「……どうしたんですか? お身体の具合いでも……」

 ……心底心配そうな顔で。
 振り向いて、俺に近付いて来たかと思うと。

「わぁぁぁぁっ! 近寄るな、屈むな覗き込むなっ、胸を寄せるなぁっ!」

 たり。

 あ……鼻血、出ちまった。
 しっかし、このフリルの付いたエプロンってのも……犯罪的だよな。

 その上でこんな真似された日にゃ、もう。

 ……ちょっと待ってろ、俺の胃袋。
 今日の夕飯はかなり遅くなりそうだ。

「大丈夫ですか?」

 心配そうに、ティッシュで鼻血を拭おうとするセリオ。
 セリオがその腕を上げると、当然胸やら脇の下やらが丸見えになって……。

 ぷっちん。

 あ、糸が切れた。






「セリオさぁん、私もお手伝いするんですー!」

 たたたたた……。

 はっ!?
 いかん、違う世界へ旅立ってしまうところだったぜ。

 ふぅ、マルチをなでなでして気を落ち着けよう……。

「おっ、マルチは働き者だなぁ……」

 後ろを振り向き。
 キッチンに走って来たマルチを、とりあえず抱き止めようとした俺は。

 ぷぱ。

「きゃっ……びっくりですぅ」

 そ、そりゃこっちのセリフじゃいっ!

「浩之さん、大丈夫ですかぁ?」

「……俺に触るな近寄るな、胸は寄せてもあんまりないからやっても構わん」

「うぐぐっ、ひどいお言葉ですぅ」

 むぅ。
 ぺ……ぺったんなコレってのも……堪らん。

「しっかし、お前まで……一体何が起きた?」

「お料理をする時は……」

 セリオと同じことを言いかけたマルチを、片手を上げて制して。

「お前らなぁ……」

 お前ら、お揃いのエプロン着けやがってっ!
 かっ……可愛いじゃないかっ!

 ……こうして見ると、やはりマルチの身体の方がボリュームが少なく見える
のはご愛嬌だ。
 それもまたイイんだしな。

「「はい?」」

 美少女2人を前にして。
 だらだら鼻血を流しながら、その2人を凝視している俺。

 断言しよう、今の俺は滅茶苦茶ヤバそうな人だ。

「俺がお前らを料理しちゃるわぁぁぁっ!」

「「きゃぁ〜、浩之さんったら♪」」

 とたたたたた……。

「待ぁてぇ〜、嬉しそうに逃げるなぁ〜!」

 だだだだだっ……。






 ……で。
 走り難いのかわざとだったのか、彼女らはあっさりと捕まって。
 いつも通り……非常に美味しくいただきました。

 つまるところ、料理は味と盛り付けと愛が重要な要素である、と。
 ご馳走様でした。






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