へなちょこセリオものがたり

その24「烈火の炎」








 さっ、さっ。

「垣根の垣根のうさぎさん〜、ごろり転げた鯉のーぼぉりぃ〜♪」

「どんな歌だ、そりゃ」

 ざざっ……どさっ。

「……結構集まるものですね、落ち葉というものは」

「だろ。まぁ、うちの庭木の枯れ葉だけじゃなくて、他所からも飛んで来たり
するからな」

「浩之さん、お掃除はひとまずこのくらいにしておきましょう」

「そだな。んじゃ始めるとすっか」

「はいー」

 たたたたっ……。

 ん……何を始めるのかって?
 そりゃあ……落ち葉は燃やして始末するって相場が決まってる。
 で、ただ燃やすのも味気ないから……。

「浩之さん、おイモさん持って来ましたぁ」

 そうそう。
 やっぱり今の時期コレだよな。
 煙がご近所迷惑になりはするが、そこは勘弁してもらおう。

「おう、ご苦労」

 なでなで。

「あうー、嬉しいですぅ」

 よしよし。

「…………」

「ん? セリオもして欲しいのか?」

 もの欲しそうなセリオに、俺がにやつきながら話しかけると。

「いえ……今は結構です」

 ふん、強情な奴め。






「マルチ、イモ投入っ!」

「らじゃーっ」

 がさっ……がさがさっ……。

「次、セリオ! メインバーナー点火っ!」

「……らじゃぁ」

 あ、やっぱりすねてる。

 ぱしゅっ……。

「…………」

 お徳用マッチを、枯れ葉の山の隅っこにかざすセリオ。
 ただただ、じーっとマッチの炎だけを見つめて……。

「なぁ……マッチだけじゃ、点け難いと思うぞ」

 新聞紙とか何か、適当に燃えやすいもので……。

「……少し下がっていてください」

「ん?」

 まぁ、言われた通りにしとこうか。

「では……!」

 セリオは枯れ葉の山から少し距離を開け。
 俺はマルチを抱えながら、それよりも離れて。

 ごくっ……。

「な、何をするんだ?」

「……燃やします」

 おおっ、火を点ける機能があるのか。
 さすがは来栖川、こんなところまでぬかりないぜ。

「……漆式・『虚空』」

 へっ?

 きゅどっ!

「うへぇっ!?」

「ま、眩しいですぅ〜」

 瞬間、天を裂いた眩い光。
 それを直視してしまった俺は、真っ白な闇に落ちた。

 奪われた視界が回復したのは、それから少し後のことだった。






「……で、イモはどこ行ったんだよ」

「……燃えました」

 ……っていうかさぁ。

「燃えたどころか、地面に大穴あいてるじゃねぇか! しかも、まだぐつぐつ
言ってないか!?」

 うおお、傍にいるだけで残った熱気が伝わって来るぜ。
 畜生、庭をこんなにしやがってぇ……親父達に何て言えばいいんだよぉ〜。

「……少々熱過ぎましたか」

「少々ってレベルかよ……」

 おのれ、しゅんとして見せても駄目だぞ。
 俺の焼きイモを……。

「すみません。攻撃衛星『八龍』は、パワー調節が非常に難しいのです」

「んな物騒なモン使うなぁ!」

「ですが……『爆熱貫通炎弾・虚空』の他にも、『無差別爆撃群炎弾・崩』や
……」

「イモ焼くだけなんだって! そんな凶悪そうなもんいらんっ!」

「8つの炎で敵を殲滅……」

「イモなんだよ! 美味しく食べられるんだ! 食いものは食って殲滅するん
だよっ!」

「それぞれの炎を組み合わせて撃ち出すことも……」

「いらないんだってばよぉ……」

 ううっ、俺の焼きイモぉ……。

「そう言えば」

 ごそごそっ……。

 突然、自分の服の胸元に手を突っ込み始めたセリオ。
 な、何か隠してるのか?

「おい?」

「先程、イモ屋さんから石焼きイモを買って参りましたので」

 もそっ。

 そう言うと、何かピンクの湯気が出てそうなイモが引っ張り出されて来て。 

「少々冷めておりますが……人肌くらいに」

「そっ……そそそそれくれぇ!」

「ええ、どうぞ」

 にっこり。






 ……何か引っかかる笑い顔だったけど。
 それはそれとして、最初に人肌の温もりを堪能してから。
 妙に美味しくイモをいただいてしまったのだった。

 ……もう何本か入ってないかな、セリオの服の中。






<……続きません>
<戻る>