へなちょこセリオものがたり

その25「お茶目だねっ」








「……浩之さん、紅茶を煎れてみましたが」

「おっ、さんきゅな」

 ソファーに寝そべってくつろいでいた俺だったが。
 セリオがそんなことを言ったので、身を起こして紅茶のカップを受け取った。

 ずずっ……。

 ふむ。
 猫舌の俺に合わせた低めの温度、やるなっ。
 茶葉の蒸らしや抽出時間にも気を配ったのか、まったりとろけるような風味
が口の中に広がるぜ……って、悪い。
 本当のところ、そこまでは俺にはわからねえ。

 でも、ティーバッグなんかよりは格段に美味いのは俺でもわかる。

「おっ、美味いじゃん。さすがだな、セリオ」

「…………」

 でも。
 カップを載せて来たお盆を、胸の前で抱きかかえ。
 ちょっと悲しそうな表情で佇んでいるセリオ。

「どうした? 人が誉めてるんだから、もうちょっと嬉しそうな顔してくれよ」

「……嬉しくありません」

「……何?」 

 何だよ、言い方が悪かったのかな?
 やっぱり口から黄金の光を吐きつつ、使われた素材の生産地や作った人達の
人となりまで解説しないといけないのか?
 『うーまーいーぞーっ!』ってな……。

「『さすが』と言われても、ちっとも嬉しくありません。マルチさんの時は、
『よくやったな』って誉めているのに……私は、何でも出来て当然だとお思い
なのですか?」

「だってお前、何でも出来るじゃん」

 ふるふるっ。

 セリオは長い髪を左右に揺らし。
 真摯に俺の目を見据え、話し出した。

「その紅茶……サテライト・サービスは一切使ってません。自分で本を読んで
煎れ方を学び、マルチさんに付き合ってもらって浩之さんに最適であろう温度
と風味を見付け出し……」

「わ、わかったよ。俺が悪かった」

「……『私』が煎れたお茶を、浩之さんに飲んで欲しかったのです」

 ずきんっ。

 カップを持つ手が震える。
 思わず取り落としそうになったカップを、ゆっくりテーブルの上に置き。

 代わりに、目の前のセリオの手を握って。

「……嬉しいぜ。ありがとう、セリオ」

「……はいっ!」

 とか言って。
 ぐいっとセリオの腕を引き込み、ソファーに座った俺の上……膝の上に彼女
を座らせて。

「あ……」

「これからは、毎日お前の紅茶が飲みたいな……」

「はい……喜んでっ……」

 何か俺、幸せ者。

 何がって?
 そりゃあ……セリオの、こんなに嬉しそうな笑顔を見られることさ。

 ぎゅぅ……。

 俺の膝の上のセリオ。
 ちょっと身をひねって、丁度脇に俺の頭を抱え込むようにして。
 左手は、腰に回された俺の手に添えて。

「むぎゅっ……セリオ?」

 う、嬉しいけどちょっと苦しいカモ。

「……もう少し……このまま……」

 俺は答えず。
 紅茶がすっかり冷めきってしまうまで、そうしていた。






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