へなちょこセリオものがたり

その28「戦慄のブルー」








「さて、今日は組み手の相手をしてもらおうか」

「……私が、ですか?」

「マルチと組み手するわけにもいかないだろ?」

 ……って、マルチ。
 何でスカートの下から例のグローブを取り出している?

 ああっ、しかも何だか楽しそう。

「ですが、か弱い乙女を……」

「今更何を言う」

「…………」

 むぅ。
 へそ曲げちゃったかな、こりゃ。






「……では、参ります」

「おう、いつでも来い」

 お互いに、ぺこりと一礼。
 ファイティングポーズを取る前に、セリオの伏目がちな視線が見えて。

 ……もしかして、戦うのは好きじゃないのかな……。






 ……などと、余計なことを考えていたら。
 あっという間に間合いを詰めて来たセリオ。

 どんっ!

 目にも止まらぬ速度で打ち出された掌底。
 寸分違わず俺の鳩尾を狙い撃ちして。

「げ」

 しまった、何もしないうちに……。

 衝撃に吹き飛ばされつつ。
 まだ食事前でよかったな、なんてことを考えたりしてた。






「……どうかされたのですか、浩之さん?」

「それはこっちのセリフだぜ、セリオ」

「……はい?」

 全く、あんな目をされたら嫌でも気になるっちゅーの。

「なぁ……組み手の相手するの、迷惑か? それなら無理には頼まないが」

「い、いえ……そんなことはないのですが」

 むぅ。
 しっかり俺の目を見て言ってくれよな。

「だって、お前……何か嫌そうだしさぁ」

「どうしてそう思われるのですか?」

 組み手を始める前の、お前の反応。
 あれだけで、そう判断するには十分だと思ったのだが。

「……その目だ」

 何か、寂し気な瞳。
 俺の気のせいだとは思えないからな……。

「……言ってくれたら、別に無理してまで……」

「いえ……浩之さんとお手合わせすること自体は、むしろ好きです」

「なら、何が?」

「あの……今日は、出来ればどつき合いよりも……」

 つつつつ……ぴとっ。

「せ、セリオ?」

「そ、その……こうして『お付き合い』していたい気分なんです」






 セリオも女の子。
 そこそこ気まぐれな部分もあるわけで。

 確かに今まで、何事も日によってやる気に差が見られたしなぁ。

 ……うん、何か俺もそんな気分になって来た。
 気まぐれ万歳だ。

「うっ、何か急に横になって休みたくなった」

「えっ!? だ、大丈夫ですか?」

 さっきの鳩尾への一撃を気にしているのだろうか。
 でも話してるうちに回復したぞ、何とかな……。

「セリオが添い寝してくれたら、きっと……」

 ……くすっ。

「はい……浩之さん」






 気まぐれお嬢さんを腕に抱きながら。
 そして、俺も抱かれながら。

 たまにはこんな日もいいよな。
 こんな、セリオの柔らかな笑顔を存分に見られる日も……いいよな。

「なぁ、今度から『添い寝の日』って作ってみようか?」

「ええ……ですが、別段その日に限ったことではないのですよね?」

「勿論だとも」

「なら、そうしましょう」

 うんうん。

 とか、妙に嬉しくなって頷いていると。
 いつの間にか部屋の入り口に立ってしくしく泣いているマルチがいた。

「あ、マルチ。お前も来いよ、ほら」

 俺は空いてる方の腕を上げて。

「ううっ、仲間外れは嫌なんですぅ〜」

 たたたっ……ぽふっ。

「ごめんな、泣かせちゃって」

「マルチさんも、一緒に添い寝しましょう」

「は、はいー……」

 えぐえぐ……。

「ほら、泣くなよ……んーっ」

「んーっ♪」

 ちゅ☆

「あ……」

「もう泣くなよ」

「は、はいー♪」

「……しくしくしく」

「……セリオも、んーっ」

「んーっ♪」

 ちゅ☆






 ……その後、交互にしくしく泣き続けやがって。
 添い寝も何も、寝られたもんじゃなかったぜ。

 でも……大満足だったぞ。






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