へなちょこセリオものがたり

その31「なめんなよ 2」








 ぶぅぅ……んっ。

『んっ……』

『よぅ、目が覚めたか』

 浩之さん?
 その前に、ここは……?

『お前も味がわかるようになったんだよな……そんじゃ早速』

『え……むぐっ!?』

 ひ、浩之さん?

『どうだ、美味いか……?』

 私の口に、黒光りする棒状のモノを無理矢理押し込んで。
 私が動くのを待っているかのように、ぐいぐいとソレを押し込んできて。

『どうした……口の中、どろどろにされないとわからないのか?』

 言うが早いか。
 喉の奥までねじ込まれたソレの先から、奔流のように液体が注ぎ込まれ。

『んっ……はっ! げほっ! げほっ!』

『おいおい……零さずに飲めよな、勿体ない……ほらっ!』

 浩之さんは乱暴に私の髪を掴んで、引き倒す。
 思わず吐き出してしまった、初めて味わう白濁の液体……私の口元から床に
垂れ落ちたそのどろっとした液に、強引に顔を押し付けられ。

 独特の匂いと、まだ口中に残る今し方の味。
 私は暖かくて柔らかい床に顔を押し付けられながら……。

 …………。

 って。
 暖かい……柔らかい床?












「―――――オレンジの○ルピスがいいです」

「……セリオっ! セリオっ!?」

 くそっ、何なんだよ?
 起動音がしたと思ったら、急にうなされ始めて……。
 かと思えば、カル○スがどうこう言いやがるし。

「ん……っ?」

 おお、気が付いたか。

「……浩之さん……ですか?」

「おいおい、お前には他に『浩之さん』がいるのかよ」

「……心当たりなら、2名程」

 ……がくぅ。

「わかった……もういい……」

「ああっ、嘘です! 私の好きな『浩之さん』は、今目の前にいるあなただけ
ですっ!」

 だきっ!

 ……むぅ。
 今の今までうなされていたとは思えん程、恥かしいこと言いやがるのな。

「うなされてたみたいだったけど、大丈夫か?」

 幼子をあやすように、俺はセリオを優しく抱いて。
 背中と頭とを、一緒になでてやった。

「は、はい……」

 ぎゅっ……。

「いつもの、優しい浩之さんです……」

「せ、セリオ……?」






 ……話を聞いた結果。
 俺が風呂上りに冷えたカ○ピス……勿論原液を飲もうとした際、コップから
垂れた雫がたまたまセリオの口に入ってしまっていたことが判明。

「……俺のせいかッ!」

 まさか俺の風呂上りのささやかな楽しみが、セリオに悪夢を見せてしまった
とわ何たることッ!

「ってーか……深層では『そういうコト』を望んでるのかな、もしかして……」

 む、無理矢理ってのは好きじゃないのだが……たまにはそういうのも気分が
変わって結構いいかもな。

「…………」

 あ、あれ……怒ったかな、セリオ?

「あのさ……ごめんな」

「…………」

 ぐすっ……すんすん。

「お、おい?」

「ううっ……初めて味わうのは、是非『浩之さんの味』を……と思っていたの
ですが、まさかカルピ○だったとは……」

「うっ」

「……どうかされましたか?」

「い、いやー……セリオが気を失ってる間に、実は、その……」

 寝顔があんまし可愛かったもんで、つい……な。

「キス、しちゃってたんだけど」

「……気を失ってる間に、ですか?」

 怒った風ではなく。
 かといって、悲しい風でもなく。

 言うなれば、少しだけ嬉しそうに。

「……うん」

「……舌、入れましたか?」

 セリオは身を屈め、後ろめたさから思わず俯いた俺を下から覗き込みつつ。
 上目で見つめられると、何だかどきどきしちまうぜ……。

「そ、それはもうってなくらいに」

 ……にまぁ。

「なら、いいです。けど……今度はちゃんと、私にも味を感じさせてください
ね?」

 よ、よかったのか? それでっ!?
 しまった、もっとあーんなコトやそーんなコトもしてみればよかったっ!

「こ、今度って……?」

「これが、私にとって本当の初めての『浩之さんの味』になるんです……」

 そして、ゆっくり近付いてくるセリオの唇。

「あ、ああ……」






「……わがまま聞いてくださって、ありがとうございました」

「いいって。好きな子のわがままなら、いくらでも聞いてやりたいもんだ」

「……甘い、キスでしたね……」

 セリオはその行為を思い出すように、指を唇に添えている。
 ……ちなみに、それは先程のカル○スの味だと思うが。

 ……ちょっと熱心になり過ぎたせいか、酸欠気味だけど。
 ぽーっと頬を染めて、幸せそうなセリオを見ていると……酸欠くらいならば、
いくらでも来いやって感じだ。

「あの……よろしければ、もっと浩之さんを……味わいたいです」

「お、おう」

 ……と、いうわけで。
 俺の心拍数が平常に戻るのは、色んな意味でもっと先になりそうだった。






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