へなちょこセリオものがたり

その33「ハート・ヒート・ガールズ」








 ぶるぶるぶるっ。

「うおおうぅ、まだまだ外は寒いなぁ……」

 がちゃっ。

「ただいまぁ」

「あ、お帰りなさいですぅー☆」

「……お帰りなさいませ、浩之さん」

 ぱたぱたぱたっ……ぽふぽふっ!

「はっはっは、可愛い奴らめ」

「……浩之さん、体温が少々低くなっているようですが?」

 ずるる……びぇっきし!

「あ、セリオ……ごめんな」

 モロにセリオに向かってくしゃみしちまった。

「……いえ、風邪でしょうか?」

 をう、鼻水まで出て来やがった。
 今更風邪なんて引きたくないぞ。

「あ? ああ、今まで寒かったからな……早く暖まりたいぜ」

「……ふふふ」

「それじゃあ私、お茶を入れて来ますぅ」

 ぱたぱたぱた……。






 ずずずず……ぽは〜っ。

「マルチ、お茶が美味いぞ」

「ありがとうございますぅ」

 とん、と飲み終わった湯飲みを置いて。
 って……セリオはどこ行った?

「マルチ、セリオは?」

「あれ? そういえばいませんね」

 と、辺りを見まわそうとしたその時。

 ふぁさっ……。

「おおっ? な、何だ!?」

「浩之さん……身体、もう暖まってしまいましたか?」

 何だ、セリオか……後ろから俺に毛布を被せただけだ。
 って妙に声が近いと思ったら、セリオも毛布の中に入っているらしい。

「ん、もう少しかな」

「……人が温もりを伝え合うには、肌と肌との触れ合いが一番高効率であると
聞いております」

 んー……まぁ間に衣服が挟まっていない方が、確かに感じやすいということ
もあるだろうが。

「で、どうするんだ?」

「……暖めて差し上げたいと。肌と肌で」

 ぷにっ。

 こっ……この背中に感じる感触はっ!?
 まさか、既に裸か下着姿っ!?

「よ、よろしく頼むぜっ」

「……マルチさんも、一緒に如何ですか?」

「あ、はいー」

 おおう……美少女2人にサンドイッチで暖めてもらえるなんて……俺は何て
幸せ者なんだっ!

 マルチもいそいそと服を脱ぎ、下着姿に。
 俺も合わせてパンツ一丁になってみたりしたが。

「ではマルチさん、これを」

「はいー」

 ん?

「なぁ、その線……何だ?」

「はい、これは私達の出力を同位にする為のケーブルです。これを使うことに
よって、両側から均等に同じ温度で暖めることが出来ます。片方の出力が低い
場合、高い方から余剰分のパワーを補完するわけですね」

「ほぅ……そんなに気を使わなくてもいいのに」

「いえ……浩之さんの為ですから」

 にやり。

 な……何故に笑うっ!?
 何だか嫌な予感が……。

「なっ、なぁ……やっぱし、何だかそろそろ落ち着いて来たような気がするし
もういいや」

「そんな、ご遠慮なさらずに」

「そうですぅ、私達に暖めさせてくださいよぅ」

 うっ……そんなきらきらした瞳で俺を見るなっ……。

「それでは、始めましょうか」

「お、おう」

 マルチとセリオが俺の両側から、毛布を被りつつ。
 2人して俺を抱きしめてくれた。

 ぽふんっ。

「如何ですか?」

「お……おおう、最高に気持ちいいぜ……」

 すべすべの肌に、両側から挟まれて。
 ほんのり桜色になっている2人の暖かさが、身体中に染み渡って行くようで。

「……では、少し温度を上げてみましょうか」

「へっ? 今くらいで十分だと思うけど」

「芯まで冷えた身体を暖めるのですから……ねっ?」

 『ねっ?』なぁんて、小首を傾げながら言われても……俺には頷くことしか
出来ないじゃないか、ずるい奴め。

「では……『ヒート・ボディ』」

 ……はぁ?

「…………」

 ぶぅぅぅぅん……。

「…………」

「……熱」

「…………」

「熱い! 熱いってばよ! 焼けるぅ!」

 暑いなんてもんじゃなく、熱いんだってば!
 一緒にマルチまで熱くなってるから、とてもじゃないが耐えられたもんじゃ
ないぜ。

 しかも、2人して俺をがっちり抱きしめてるから……逃げることさえ出来ず。

「あちちちちちちちちちちち」

「……左様ですか……では、冷やしましょう」

 ……また、いやな予感。

「…………」

 ぶぅぅぅぅん……。

「冷たっ! おい、セリオってばよ!」

「…………」

 ひぃぃぃ……2人が触れてる部分の感覚がなくなって来た……。
 ううっ、こいつらの頬に霜が降りてるよ……何でこんな真似するんだよぅ。

「な、なぁ……もういいから、放してくれよ……」

 がちがちがちがちっ……。

 ううっ、素直に風呂でも入ってりゃよかった……。

「あら、もうよろしいので?」

「あ、ああ。もう十分だ……」

 にこっ。

「……では、これくらいにしておきますね」






「……なぁ。俺、何か恨まれるようなことでもしたか?」

 あの後。
 今度こそ、じわじわと丁度いい人肌に温度を設定してくれたセリオ。

 例のケーブルだが、『片方の出力が低い場合、高い方から余剰分のパワーを
補完する』というのは間違いではなく、ただそれだけの機能しか持ってないと
いうことで……つまるところ、衛星システムやら何やら積んでるセリオの方が
何かと出力は高いわけで。セリオが高出力にすると、その差分のエネルギーを
貰うマルチの方もつられて高出力になってしまうとか何とか……。

「……ええ、少し」

「くしゃみか?」

「……ええ」

 むぅ……謝ったじゃんかよぅ、それ。

「俺は、いじめ反対だ」

「…………」

「浩之さん、ごめんなさいですぅ」

 よしよし。
 マルチは単に利用されただけだもんな。

 なでなでなでなで……。

「あ……」

「……私には……?」

「はいはい」

 なでっ。

「も、もうお終いですか? やりすぎたとはいえ、それはあまりにも」

 俺は答えず、そっと2人の間から身を起こして。

「さて……今日の晩飯は何だろな、マルチ?」

「はい、ビーフ・カタストロフですぅ」

「ストロガノフだろ」

「あうっ、しまったですー」

 似てないこともないが、そんな名前の料理は食いたくないぞ。

「はっはっは……さて、そんじゃあ飯の前に風呂にでも入ろうかな……」

「はうっ!? 私も入るですぅ!」

 下着姿のまま、キッチンへ向かおうとしていたマルチだったが。
 飛び跳ねるようにして、慌てて俺の元へ戻って来て。

「マルチは晩飯の準備。行くぞ、セリオ」

「……はい?」

「嫌なら別にいいけどな」

「……いえ、ご一緒します」

 俺は見た。
 セリオが、そっと胸を押さえて安堵の息を吐いたのを。

 ……ちょっとだけヒネてんだよな、こいつ……。
 こういうとこが可愛いとこかもしんないけど。

「あうあうあう〜……お風呂がぁ……」

 この程度で泣くな、マルチよ。

「美味い晩飯食ったら、マルチと一緒に入ろうな」

「はっ……はいー☆ 頑張ってご飯を作るですぅ♪」

 さて、それじゃ風呂場へ向かうとしますか。

「…………」

 ちょっと申し訳なさそうな。
 ちょっと嬉しそうなセリオ。

「……さっきの仕返し、覚悟しておけよ?」

「あ……は、はいっ……」

 ははは、びくびくするなよ。
 あのくらいを根に持つようじゃ、人間生きて行けないぞ。

「いぢめてやるからな、それはもう」

 当然、違う意味で……な。

「は、はいっ♪」

 俺の言い回しに気付いたのか。
 一変して笑顔になったセリオ。

 さぁ……さっきの仕返しに、思う存分熱くしてやるぜ……。
 覚悟しやがれ、セリオめ。






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