へなちょこセリオものがたり

その34「耳を澄ませば」








 ちょいと、野暮用。
 学校の宿題でわからんことがあり、お助けセリオさんに質問しに来たのだが。

「おーい、セリオ?」

「セリオさんなら、ただ今お風呂ですぅ」

 何だ、そうか。
 ん……お、お風呂っ!?

「そうか、風呂か……」

「はい、お風呂ですぅ」

 ……ちょっと、行ってみようかな。






 で、バスルームまで来てみたが。

 しゃわぁぁぁぁぁっ……。

 おおう、入ってる入ってる。
 脱衣かごに、ちゃんとたたんで服を入れてあって……几帳面な奴だな。

 おっと、下着発見……。

「フォォォォ……」

 ちょっとだけ頭に被ってみたりして。
 ああ……意味もなく幸せな気分……。

「……はっ!?」

 いかんいかん、こんなところで下着を被っているところを見られたりしたら
何も言い訳が出来んぞ。
 ……いや、どこで被っても一緒だが……。

「おーい、セリオ?」

「……はい、何でしょうか?」

「風呂から上がってからでいいからさ、ちょっと勉強教えて欲しいんだ」

「はい、わかりました」

 セリオはサテライト・サービスにより、一流の家庭教師にもなり得るわけで。
 実際、学校の授業よりも随分とわかりやすく勉強を教えてくれる。

 ま、それも俺がごくたまに勉強する気になった時だけだがな。

「さて、そんじゃ待ってる……ぜっ!?」

 いつまでもこんなところにいるわけにもいかないので。
 セリオが出てくるまで、居間でマルチをなでなでしていようと思った矢先。

「……こ、これは……」

 それは、見慣れたモノ。
 脱衣カゴの隅に隠すように置かれた、セリオの耳カバー。

 風呂に入るからって、外してやがるんだな。

「…………」

 きょろきょろ。

「誰も見てないな……よぅし」

 俺はカゴの中からイヤーセンサーを取り出し。
 一辺、着けてみたかったんだよな。

 ぱこっと。

 両耳にセンサーを当て。
 いつもセリオが肌身離さず使っているモノだと思うと、意味もなくどきどき
して来たりして。

『…………』

「ん? 何か聞こえるような……」

 小さな、小さな声。
 俺は耳を澄まして、それを聞いてみようとしたら。

『きゃぁぁぁぁぁっ!』

『うわぁぁ、やめてくれぇぇぇ!』

『嫌っ、嫌ぁぁぁぁぁっ』

『死にたくないぃぃぃっ!』

『ぎぃやぁぁぁぁぁっ!』

『助けてぇぇぇ』

 ばっ!!

 慌ててセンサーを外した俺。
 な、何だよ今のは……?

 からっ。

 バスルームのドアを、少しだけ開けて。
 頭だけこちらを覗き込んだセリオ。

「……聞いてしまったのですね」

「や、やぁセリオ……」

 謎の叫び声。
 それは、聞いただけで背筋が凍るような。
 何もしていないはずなのに、冷や汗がだらだらと流れて来るような。

 そして……何でもないはずなのに、俺の目には涙が溜まっていた。

「今の……何?」

「いわゆる断末魔の叫びです」

「……いつもお前、こんなの聞いてるのか……?」

「ええ、それはもう」

 にっこり。

 な、何でそんな陶酔した目をするっ!?

「……悪ぃ、もうコレには2度と触らないからさ」

 って言うか、セリオに触れるのも恐くなって来た。

「やっぱ、勉強の方もいいや。自分でやるから……」

「嫌ですね、冗談ですよ。それは長瀬主任がどこかから集めてきた『実録!? 
旧陸軍の秘密人体実験の実態! 阿鼻叫喚の渦の中に何を見たっ!?』の一部
です。一定時間外していると、防犯機構が働いてその声が流れる仕組みにした
のだそうで」

 何だよ、その胡散臭いタイトルは。
 本物の声だとは思いたくないが、聞いて随分ブルー入っちまったぜ……。

「誰かが勝手にいじらないようにしたかったそうですが」

「……今度のメンテの時に外して来い、そんな機能」

 勝手にいじった俺も悪かったが、いくら何でもこれはよぉ。

「はい……ところで、その頭に被っている下着は私のものでしょうか?」

「……ああっ!?」

 しまった、忘れてたっ!

「……折角ですから、一緒に入りませんか? 浩之さんも、そんなモノ被って
ないで……」

 セリオはドアを全開して。
 一糸纏わぬ姿でゆっくりと俺に近付き、被ってた下着をそっと外して。

「……ね? 包み紙より、中のお菓子を食べたくはないですか……?」

「あ、ああ……」






 ……で。
 今回は風呂場でお菓子をいただいてしまったのだった。






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