へなちょこセリオものがたり

その41「星をみるひと」








 俺は、1本の小瓶を前に悩んでいた。
 それの中身は、工業用アルコール。

 そう、マルチをマルチでなくしてしまう悪魔の液体。

「……セリオは、一体どうなるのかなぁ……?」

 家に何故かあった一斗缶は、以前処分した。
 が、酔ったセリオが見てみたくなって……ついつい買って来てしまったのだ。

「……よし」

 今夜、試してみよう。
 おっと、マルチには内緒でナ。






「浩之さん、今日もとっても素敵でした……♪」

「おう……お前も、すっげぇ可愛かったぜ」

 ちゅ☆

「あっ……は、恥かしいですっ……」

 おいおい……そんな嬉しそうな顔されたら、また……。
 って、そういや今日は大事なミッションがあるんだった。

「なぁセリオ、お前は酒って飲めるか?」

「お酒……ですか? はい、大丈夫ですケド」

 折角余韻に浸ってるのに、何でそんな話を。
 そんな顔で、でもとりあえず答えてくれる。

「実は、さ」

 枕の下から、例の瓶を取り出し。

「酔ったセリオを見てみたいなぁ……なんて」

「……酔わせて、一体何をしようと」

「して欲しいことがあったら、遠慮なく言ってくれよ?」






 俺は自分用に日本酒を持って来て。
 セリオのコップにアルコールを注いでやったら、セリオもしっかり返盃して
くれて。

「そんじゃ、とりあえず乾杯だ」

「はい、乾杯」

 かち……ん。

 コップ酒ってのも何だけど。

 こくん。

「はぁ……純度高いですね、コレ」

 1口飲むなりそんなことを言うセリオ。
 思わず俺は酒を吹き出しそうになって。

「はっはっは、そりゃそうさ。この為に高いやつを選んだんだから」

 純度99.999%。
 薬局の親父に無理言って探させたモノだ。

 折角なんだし、美味しく飲んでもらいたいもんな。
 ……そういや、味の方は大丈夫なんだろうか……。

「美味し……」

 こくん。

 そ、そうなのか?
 自分で飲ませておいて何だが、ちょっと心配になっていたのに。

「そっか。よかった」

 ごくり。

 2人、窓から見える月を眺めながら。
 ちびりちびりと、徐々にコップを空けていく。

「何か、いいな。こういうのも」

「そうですね」

 もぞもぞと、ちょっと座り直すセリオ。
 でも何か落ち着かないみたいで。

「あの」

「ん?」

「もっと傍……寄ってもいいですか?」

「……ああ」

 俺の答えににっこり微笑むと、セリオは俺にぴったりくっ付いて。

「……花火」

「ん?」

「花火、見たいです」

 花火かぁ……まだその季節には早いかな。

「もうしばらくしたら、みんなで一緒に見に行こうか」

 そうだ、2人に浴衣でも用意してあげよう。
 きっと色っぽいんだろうなぁ……今から楽しみだぜ。






 ……で。
 『はい、楽しみにしています』などと言ってくれるかと思ったら。

「いえ、今すぐに見たいです」

 ……だから、この季節じゃどこもやってないって。
 しかもすでに遅い時間だし。コンビニとかで家庭用のを買って来ても、近所
に悪いから今日はもう出来ないぞ。

「無理だって、それは」

 ちょっと苦笑しつつ。
 セリオも酔ってるのかな、なんて。

 でも、こんな酔い方なのか……らしいと言えば、らしいのかもな。

 で、俺がセリオの髪をなでようと手を伸ばしたその時。

「セリオ……」

「『メテオ・ストライク』」

「……はぁ?」

 一瞬、何を言ったのかわからなかった。

 俺はセリオが見つめている視線を追ってみて。
 すると数秒後、何か夜空の向こうで光った気がして。

「あ……流れ星だ……」

 しかも、徐々に大きくなっているような。
 ってことは……つまり、こっちに向かって来ていると?

「お……おい、セリオ!?」

「『漆式・虚空』」

 きゅどっ!

 どっぱぁぁぁんっ!

 星空を切り裂き、一条の光が流れ星を貫いて。
 撃ち抜かれた流れ星は、一瞬で四散して。

 ……撃ち抜いた光は、見事に地表まで届いたようだった。
 ぱらぱらと降り続ける赤熱した岩の破片と、炎上する地表。

「綺麗……」

「『綺麗……』じゃねえっ!」






 ……次の日、びくびくしながらテレビを付けてみると。
 どういうことか、『謎の隕石落下』ということでケリがついてるみたいなの
だった。

 ……酔ったら、セリオの方がマルチよりも随分タチが悪かったのな。
 好奇心だけで動いた自分に、反省。






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