へなちょこセリオものがたり

その42「たつまきせんぷーきっ」








「というわけで、これが扇風機だ」

「存じています」

「わぁ、私は初めて見ましたぁ」

 うむ、セリオは知っているかとも思ったが。
 今日はマルチに説明してやろうと思ってな。

「コンセントに繋いで、このスイッチを入れると……」

 かちり。

 ふわぁぁぁぁ……。

「わぁ、そよ風ですぅ」

「これを使うことによって、家屋の中でも風を作ることが出来るのだ。偉大な
先人達の知恵なのだ」

「……エアコンがあるのに、どうしてこのようなものを」

 うっ、うるせえ。
 エアコンが入る前は、こいつが現役バリバリだったんだよっ。

「細かいところは気にするな」

 ちょっと悔しい突っ込みだ。

「だが、これの使用法はそれだけではないのだ」

「……は? 涼を得る為だけではないと?」

 うむ。
 さすがのセリオも、扇風機で遊んだ経験まではあるまい。

「……見よっ! っていうか聞けっ!」

 俺は扇風機の後ろに回り込み。
 ひゅんひゅん回っている羽根の裏側から。

「今晩はみんなで風呂に入ろうなぁぁぁぁ」

「……おおっ!」

「わぁ、浩之さんの声が可愛くなってて何だか気味悪いですー」

 ……ちょっとショックだな、それ。
 悪気のない笑顔で言われてるところがまた、何とも言えず悲しい。

「……とまぁ、こんな風にボイスチェンジャー的な使い方もあるわけだ」

「なるほど……勉強になります」

「これで悪戯電話もかけ放題ですねっ」

 おいおい、そんなことすんなよ。
 っていうか、マルチよりもセリオの方が興味深々って感じだな。

 まぁ、知っていると思っていたものの新しい使用法を聞いたんだし。
 知識を深めるのはいいことだ、うん。






 で、その時はそれで終わったのだが。
 晩飯前、俺が自室で雑誌を読んでいたら。

 こんこん。

「ん? ……って、セリオ……?」

 戸口を見ると、扇風機を正面に抱いたセリオがいて。
 よく見ると、電源ケーブルの先はセリオの髪の中……背中に消えていて。

「浩之すわぁぁぁん、ごふぁんですよほぉぉぉ」

 ……どうやら、気に入ったらしかった。






<……続きません>
<戻る>