へなちょこセリオものがたり

その45「衝撃注意」








 俺が下でマルチを探していると。
 丁度、階段を昇って上に行くところだった。
 俺は迷わず床に這いつくばり、マルチのスカートの中を……って違う違う。

 ……でも一応覗いとくか。






 で、しばし堪能した後。

「おーい、マルチぃ」

「あっ、はー……いっ!?」

 俺に呼ばれて振り向いて。
 平らな床と同じ感覚でいたのか、いきなり足を踏み出して。

 がくんっ!

「ま、マルチっ!」

「んきゃぁぁぁぁっ!」

 どん、どん、ごんっ、がんっ、ぼすっ!

 最後のは、俺が下で受け止めた音だ。
 ……って、そんなのどうでもいいっての!

「大丈夫か、マルチっ!?」

「あ……はいー、何とか大丈夫そうですぅ」

「大丈夫ってお前、あんなにごろごろ落ちて来て……」

「私、頑丈だけが取り柄ですからっ」

 ううっ、俺が変なところで声をかけたばかりに……。
 ごめんな、マルチ。

 ぎうっ……。

「ひ、浩之さんっ?」

「ごめん……俺のせいで、マルチが……」

 ふるふるふるっ……からからん。

「そんなことないですよぅ、私がもっとしっかりしていれば……」

 ……ん?

「何か今、変な音がしなかったか?」

「ほえ? そう言われてみれば、そんな気が……」

「マルチ、もう1回頭振ってみ」

「はいー」

 言われるまま、勢いよく頭を振り始めて。

 ふるふるふるふるふるっ!

 ……ころん。

「お、おおっ!?」

「ね……ね、ネジが出て来たですぅっ!」

 待て、ちょっと待てぇ!
 どこのネジだ? って言うか今、どこから落ちた?

 マルチの耳孔にも入らなさそうな、こんな太いネジ……直径1cmくらいで
長さは3cmってところか、コレ?

「あ、あうあうあうあっ……どどどどうしましょう、浩之さんっ!?」

「お、落ち付けっ! 深呼吸してから机の下に隠れるんだっ!」

「はっ、はいっ!」

 すぅ〜っ、はぁ〜っ……。

「それで、どこの机に隠れるんですかっ!?」

「……悪ぃ、俺も慌ててたみたいだ。机はやっぱいらん」

 むぅ……隠れてどうするんだっての、俺。

「……凄い音がしましたけど、どうかなされましたか?」

「おおっ、セリオ!」

「あうあうあうっ、実はかくかくしかじかで……」






「なるほど……わかりました」

「な、何とかなるのかっ!?」

「ええ」

 ふ、ふぅ……よかったぁ。
 一時はどうなることかと思ったぜ、脅かしやがって。

 精密機械の、どこだかわからんネジが外れた時くらい恐い瞬間はないぜ。

「ではマルチさん、ちょっとだけじっとしていてください」

「は、はいぃ……」

 セリオはネジを俺から受け取ると。
 マルチの口を、大きくこじ開けて。

 ぽいっ。

 ……ごっくん。

「お、おいっ!?」

「これで大丈夫です」

「わぁい、よかったですぅ」

 マジかい。

「今度から気を付けてくださいね」

「はぁい、ありがとうございますぅ」

 屈託なく笑うマルチ、その髪をなでているセリオ。
 危機は去った……いい光景だ、全くな。

 だが。
 ……お前ら、本当にそれでいいのかっ!?






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