へなちょこセリオものがたり

その47「ぷいっ」








 何か今日は、セリオの機嫌が悪かった。
 朝は何ともなかったのだが、夕方家に帰ってからは……恐いくらいに。
 だもんで……下手に刺激しないよう、あまり傍に寄らないように気を付けて
いたのだが。

「……夕食です」

「……梅干しと、おにぎり……これだけ?」

「いえ、もう一品」

 ほっ。
 としたのも束の間。

 ことん……。

「……これで終わりです」

 お、お茶かい……。






「……なぁ。今日、何かあったのか?」

「いえ。何もありませんでした」

「じゃ、俺が何かやったのかな?」

 そんな覚えはないけれど。
 でも……気付かないうちに、怒らせるようなことをしていたのかもしれない。

「いいえ、何も」

 …………。
 それは『そうです、浩之さんが悪いんです』って意味に取ってもいいものか。

「何だよう。言ってくれなきゃわからねえよう」

「ですから、浩之さんは何もしていません」

 ……何か、引っかかる言い方だな……。
 俺、今日は帰ってきてから何をしたっけ……?

 まずすぐマルチと抱き合ってなでなで、そのまま居間でマルチと抱き合って
ごろごろ、マルチを抱えてテレビ見てだらだら……。
 何だ、セリオとは何もしてないじゃん。

 よかった、よかっ……って、全然よくねぇ!

「せ、セリオ……忘れてたわけじゃなかったんだ……傍にセリオの姿が見えな
かったからさ」

 俺がそう言うと。
 セリオは、すねたような顔で。

 ぷいっ。

「…………」

 ……何ィ!?
 セリオが……ふくれっ面ぁ!?

 す、すねた表情も可愛いぜっ……って、そんなことを言ってる場合じゃない。

「浩之さんは、私のコトなんかどうでもいいんですね」

「そ、そんなことないってば。ほらほら、お詫びに一緒にご飯食おうぜ」

 お、お前の作ったおにぎりだけどな。

「……食べさせてくださるのですか?」

「ああ、勿論だ」

「……口移しで、ですか?」

「そっ……そんなこと、してもいいのか!?」

「…………」

 こくん。

「なっ……もう決めたからなっ! 『やっぱしやーんぴっ☆』なんて言っても、
もう遅いからなっ!」

「はい……では、夕食を温め直して来ますね♪」

 夕食って、おにぎりを?

 とたとたとた……。

「今日のメニューは、ボルシチなんですよ」

「……このおにぎりは?」

「ああ……それはダミー、偽物です」

 ……やられた。
 どうやらちゃんとした食事を用意した上で、俺を罠にかけたらしい。
 それも……今日は帰ってから構ってもらってない、ということで。

 ううむ、何て奴だ。
 何で素直に言えないかなぁ……まぁ、そこがセリオらしいのかな?

 くいくいっ。

「うーっ……」

 あ、マルチ。

「私も、浩之さんと口移しがいいですぅ……」

「ああ。3人で一緒に食べさせっこしような」

「はいー♪」

 ……ちょっと、いつもより時間がかかりそうだったけど。
 でも、それはそれで……な。

 と、いうわけで。
 さっきまでのが嘘のように機嫌よさそうな、セリオの背中を眺めつつ。
 料理がテーブルに並ぶのを、今か今かと待ち望んでいたのであった。






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