へなちょこセリオものがたり

その48「名称未決定」








「そう言えばセリオ、どうして最近綾香のことを『綾香さん』って呼ぶんだ?」

「そう言えばそうですよね」

 そう。
 会ったばかりの頃は『綾香様』だったのに。
 気付いたら、いつの間にか『綾香さん』。

 いや、別にどうと言うことはないんだけどな。
 ちょっと、気になってな。

「……浩之さん。最初私が『ご主人様』と呼んだ時、ちょっと困った顔をされ
ましたよね?」

「ああ」

「……つまりは、そういうことデス」

 何だか……わかったような、わからないような。

「何だよう、もう少し詳しく聞かせてくれよう」

 きっと、綾香もくすぐったいような気持ちになったに違いないけど。
 きっと、そんな距離感を感じるような呼び方を嫌ったに違いないけど。

 でも、な。

「……どうして、そのようなことを聞かれるのですか?」

「いや、何となくだ」

「……もしかして」

 くすくすっ。

 な……何だよ、その含み笑いはっ!?

「ほえ? 何が『もしかして』なんですか?」

「マルチさん……浩之さんは、最近刺激に飢えているようですよ」

「飢えてるって……何でだよ?」

「変わり映えのしない呼称では満足出来ず、何か新しい呼び名で呼んで欲しい
のですね」

 にやり。

「……何だよ、それ」






「…………」

「ヒロろん、お茶を入れて参りましてよ」

「ひろりんさん、ゆーびんですー」

「あら……飲んでくれません? それとも飲ませてあげないとダメなのかしら、
ヒ・ロ・さ・ま♪」

 …………。
 ま、別に呼び名などはどうでもいいことなのだが。

 『浩之さん』を除いた、考えられるだけの呼び方で。
 『ヒロっち』『ヒロぴん』『ヒロすけ』『ヒロちゃん』『ヒロりろり』……
もっとまともなのはないのか、お前ら。

 俺が返事をする前に、既に紅茶を口に含んでいるセリオを眺めつつ。
 何か気に入ったのがあれば、今度からそれで呼んでもらおうとか考えてる俺
だったりした。






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