へなちょこセリオものがたり

その54「男の誇り」








「それでは、私達は着替えますから……覗いたりしないでくださいネ」

「おう、下で待ってるぜ」

 今日は日曜、お出かけの日。
 午前中は家の掃除などを済ませ、午後から一緒に買い物なのだ。

 で……昼飯食った後に、そろそろ準備しようということで。
 俺の部屋で今日の作戦予定を話し合った後、2人は俺の部屋で着替えること
になり。
 俺は予想通り追い出されて、1人で居間にいるのだった。

「とは言ったものの……可愛い女の子達の着替えを覗かんってのも、あいつら
に対して失礼だよな」

 可愛い・美しいというのは、見られてこそのものではないだろうか。
 だからこそ、俺が存分に堪能してやるぜっ!

「つーわけで、バレないように……」

 こそこそっ。






 そろーっと、そろーっと。
 階段の壁端の方、接合強度が高そうな部分を選んで足を運び。
 ただの1度も音を立てることなく、2階へ到着。

 さて、ここからだな……。

 やはり壁際を伝い、自分の部屋へ向かう俺。
 すると俺の部屋のドアに、何やら張り紙がしてあった。

 ……『みだらに覗かないでください』……。
 うーむ……な、何が言いたいんだろうか。

 ……『みだら』でなければ覗いてもいいってことかっ!

 よっしゃ、任せろ(爆)!






 ……きぃっ……。

 うをっ、しまった。
 日頃から潤滑油注しておけばよかったっ!

 そーっと……。

 おっ、マルチが丁度ブラウスを着てるとこだぞ。
 うむ、今の音には気付かなかったみたいだな。
 おおっ、あの下着は滅多に着けないやつだ……今日はやる気だな、マルチっ。

 って、セリオは……いたいた。
 まだ着替えの選定を終えていないのか、上下とも下着姿で。
 やっぱりいいスタイルしてるぜ……下着と靴下だけってのも、何かイイよな
……(爆)。

「マルチさん、浩之さんの服……お借りしても大丈夫でしょうか?」

「はい、大丈夫だと思いますよ」

「では、今日はボーイッシュにキメてみましょうか」

 おおっ……俺の服だってぇ?
 セリオに似合いそうなやつってあったかなぁ、っていうかセリオが脱いだ後
そのまま俺が着てみたりして(爆)。

「えーと、どれにしましょうか……」

 セリオは、箪笥を物色しに移動して。
 僅かなドアの隙間からは見えない位置に行ってしまったようだ。

 も、もう少しドアを……いやいや、コレ以上欲張って気付かれても勿体ない。
 着る服を決めたらまた戻ってくるはずだから、しばし待つべしっ。






「…………」

 とんとん。

 俺が息を潜めて部屋の中を見守っていると。
 誰かが、俺の肩を突っ付いて。

「何だよ、今いいトコなんだから」

「…………」

 とんとん。

「邪魔するなって、少し待っててくれよ」

 ……あれ?
 ……って。

 そろーっと、俺が後ろを振り向くと。

「…………」

 どこか不自然な笑顔のセリオが、そこにいた。

「のわっ! せ、セリオっ!!」

「はきゃっ!? 浩之さん、そこにいるんですかぁ♪」

 しまった、マルチにまでバレてしまったっ!
 っていうか、何で嬉しそうなんじゃい。

「……覗いてしまいましたネ?」

「ちょ、ちょっとだけ……」

 ああっ、表情が変わらないっ。
 何か怖いですよ、セリオさん?

「張り紙までしたのに……お馬鹿さんですね」

 ふっ。

「み、みだらな感情では決して……」

「それは、今から私達が判断しマス」

 ……今から?

 と、俺がその言葉の真意を確かめる間もなく。

 ひょい。

「お、おおっ!?」

 俺は突然セリオの肩に担ぎ上げられ。
 抵抗も出来ないまま、部屋の中に連れ込まれる。

「……マルチさん、獲物がかかりました」

「わぁい、イキのいい浩之さんが獲れたですー☆」

 な、何のことを話してるんだっ!?
 何でか嫌な予感がするぞっ!?

「で、出かけるんじゃぁ……」

 セリオは俺をベッドに投げ落として。
 髪に隠れた背中の辺りを、何やらごそごそと探している。

「夕方からでも、十分間に合いますヨ」

 ニヤリ。

「ま、待てよ……その手に持ってるモノは……いつの間にそんなモノを……? 
っていうかソレ、まさか使うのかぁぁぁぁっ!?」

「ええ、今日の私はボーイッシュにキメることにしたのは、浩之さんもご存知
ですよネ?」

「あ、ああ……」

 セリオの持ってるブツにおののきつつ。
 マルチに助けてもらおうと、アイ・コンタクトを試みようとしたが。

「わぁい、こういうのは初めて見るですー♪」

 瞳を爛々と輝かせて。
 コトが始まるのを、今か今かと待ち望んでいて。

「ですから、今日は私がタチということで」

「嫌だっ! そんなの絶対に嫌だぁぁぁっ!」

 違うっ! 『ボーイッシュ』ってのは、そんなことに使う言葉じゃないっ!

「まぁまぁ、慣れればそれ程苦痛でもないそうですし」

「慣れたくないわ、そんなモンっっ!!」

 俺は何とか逃げようと試みるが。
 いつの間にか俺の後ろに回っていたマルチが、見事にぐるんと転がして俺を
うつ伏せにして。

「うふふふふー……セリオさんの次は、私もお願いしますねっ♪」 

「嫌っ……ヤメテ……」

「では、参りマス」






 ……それから数秒後、家中に俺の悲鳴が轟いたのであった。

 後にその時俺の家の傍を通ったと言う俺の友、佐藤雅史は語る。

『すごい声だったよ……とても嫌な寒気を感じたから、関わり合いにならない
ように急いで家に帰ったんだ』

 雅史は、冷たい奴なのか。
 いや……俺が雅史でも、恐らく同じ行動を取っていただろう。

 俺の悲鳴は、それ程悲痛なものだったらしい。






 ……ぐすっ、すんすん。

「もう俺、オムコに行けない……」

 ぐすっ、ぐすぐすっ。

「素敵でしたよ、浩之さん」

「その通りですぅ、とっても可愛かったですよっ☆」

 すんすん。
 ううっ、全然慰めになってないよう。

「さて……少し遅くなりましたが、そろそろ買い物に出かけましょうか」

「あ、はーいっ」

「お、俺は歩けん……」

「……でしたら、夜の為に体力を温存しておいてくださいネ」

 ニヤリ。

「ひ、ひぃぃぃぃっ!!」






 ……で。
 その日は、命からがら雅史の家に逃げ込んだ俺だった。

 ……買い物から帰ったセリオに速攻でバレて、無理矢理連れ戻されたケド。






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