へなちょこセリオものがたり

その55「人類ネコ科」








 その日俺が家に帰ると、玄関先にでっかい段ボール箱があった。

「…………」

 ぱたぱたぱた……。

「浩之さん、お帰りなさいですぅ」

「おう、ただいま……この段ボール、一体何だ?」

「セリオさんですぅ」

 ……何?

「この段ボールが、セリオだって?」

「はい」

 そんなににこにこして、自分が何を言ってるのかわかってるのか?

「ああっ、セリオ……こんな変わり果てた姿になっちまって……」

 しゃがみ込んで、段ボール箱に頬をすりすりしてみる。

「こんなことなら、もっと優しくしておくんだったぜ……」

「違いますよ、中にセリオさんが入ってるんです」

 いや、それはわかってるけどさ。

「……何で?」

「何でも、浩之さんにいぢめられたとかで……」

 むぅ?
 そんな覚えはないのだが……。

 あ、待てよ。
 そういや今朝、セリオが充電中に悪戯してみたんだっけ。

 ちょっとほっぺに猫ヒゲ描かれたくらいでいじけるなんて、可愛い奴め。

「おーい、セリオ?」

 俺は段ボールに話しかけてみる。

「ほらほら、一緒にテレビでも観ようぜ? マルチと2人、一緒にだっこして
やるからさぁ」

 ……ぴくん。

 お、ちょっと動いた。

「ほっ、本当ですか? 浩之さんっ」

「おお、本当だ。だからマルチ、何とかセリオを引っ張り出せ」

「はい、頑張りますっ」

 セリオがこんなもんの中に入ってるのは俺が原因なんだし、やっぱり何とか
しなくちゃな。






 で。
 マルチはバスルームに行って、何やら持って来て。

「……それ、何だ?」

「えへへー、これでおびき出すんですぅ☆」

 ずびしっ!

 マルチが嬉しそうに広げて見せたそれは、何と俺のパンツ。

「ちょ、ちょっと待てぃ! そんなもので……」

 ごそり。

 ……え?
 は、反応したぁ!?

「セリオさん、セリオさん。箱から出たら、これを差し上げますよ〜」

「おい、それ俺の……」

 そんなもの、勝手に差し上げられても困る。

「……ほやほやがいいデス」

 ……何?

「そうですか……それじゃ、一緒にほやほやをげっちゅーしましょう」

「え?」

「……いい案ですね、それ……わかりました」

 ……ごそっ。

 横に『セリオちゃんハウス』と書かれた段ボールが動いたかと思うと。
 ぶわっとそれを放り投げつつ、セリオが俺に向かって突進してきた。

「うわっ!? ね、猫ぉ!?」

「ゆっ……油性ペンなんて許せませんっ!」

 ……ああっ、しまった! ペンを間違えたのかっ!?
 とっくに顔洗って落としたものだとばかり思ってたのにっ!

 とか言いつつも、しっかり猫耳スタイルになってる辺りが俺の心をくすぐる
ところだぜっ!

 ……ばむっ!

 それこそ猫科の動物のような動きで、一気に俺を押し倒したセリオ。

「せ、セリオ……そのカッコしてると、本当の猫みたいで可愛いぜ」

「そうですか、ありがとうございます」

 ……ほっ。
 よかった、まだ話を聞いてくれそうだ。

「……ですが、それはそれデス。とりあえずお仕置きしマス」

「とっ、『とりあえず』って何なんだよぉぉ!?」

 ぬぅぅ、とっくにキレてやがったかぁっ!
 かっ、かくなる上は……。

「にゃぁ」

 とすっ。

「がっ!?」

 俺が何かしようとする前に、セリオのにくきうが俺の首の横を突いた。
 『ぷにっ』とした極上の感触とともに感じたのは、自分の身体の自由が効か
なくなったような感覚だった。

「さて……これで浩之さんはしばらくの間、木偶……」

「楽しみましょうね、セリオさん」

 で、木偶って……ああっ! 何か身体が動かないっ!?
 首から上は何とか動かせるのだが、腕や足は全く動きそうな気配はない。

「お、おい……楽しむって、何を?」

 っていうかお前、俺に何をした?

「昔の人は言いました、『目には目を、歯には歯を』……つまり……猫には、
猫を」

「ち、違うと思う」

「違うかどうか、これから検証しましょう」

「遠慮します」

「問答無用デス」

 マルチと2人、怪しい笑いを浮かべながら。
 引きつった俺の顔を、楽しそうに眺めながら。

「ひ、ひぃぃぃぃ……」






「……やはり、猫×猫だと相性がばっちりでイイですネ」

「……猫×犬の取り合わせも、結構よかったですぅ」

 ちょっと息を荒くしていて。
 ちょっと頬が紅潮している2人。
 ……2人とも、妙につやつやして見えるぜ。

「しくしくしく……」

 俺、ここんところ奴らにヤられっぱなし……。
 ううっ……自分の存在意義を疑いたくなってきたぜ。

 俺は、無理矢理猫の着ぐるみを着せられていて。
 そして、2人に嬲られるままになっていたわけで。
 漢字が逆……『男女男』じゃなく『女男女』だな(笑)。
 畜生、畜生! 今に見てろぅ!

 ……などとは、今の2人の目の前では口が裂けても言えない俺だった。






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