へなちょこセリオものがたり

その56「王様ぁ」








「『王様ゲーム』とは、何でしょうか?」

 ……いきなり何を言い出すんだ、セリオの奴は。

「『王様ゲーム』? ……何なんですか、浩之さん?」

 マルチもどうやら興味を示したようで。

「うーん……何て言うかな、実際にやってみようか」

「「はーい」」






 割り箸を3本用意。
 それぞれに1〜3まで番号を振って、適当なマグカップに突っ込んで。

「これをそれぞれが選んで引き抜くわけだ」

「「はい」」

「でな、割り箸の先端に番号が書いてあるんだけど」

 俺は1本引き抜き、その番号を2人に見せる。

「1番の人が王様、すなわち他の人に命令出来る。他の番号は単なる識別番号
なのだ」

「命令って、どんなことをするんですかぁ?」

 ……いい質問だ。

「うん、それだけどな……何でもいい」

「……何でも?」

「そうだ、王の権力は絶対なのだ。逆らうことは許されないのだ」

 それはもう、えっちなことでも何でも。
 こんなコトやそんなコト、果てはあんなコトまで……。

 もんもんもんもん。

「さ、さぁ……始めようか」

「あ、あうう……浩之さんから妙なやる気を感じるですぅ」

「……面白そうですね」






 と、いうわけで。

「わ、私が1番ですぅ」

「ちっ」

 俺は3番……ということは、セリオが2番か。

「…………」

 マルチが王様……この場合、女王様だな。

「ささ、何なりとご命令をどうぞ」

「…………」

「う〜ん、命令と言われても……」

 むむ、なかなかに悩んでいるな。
 マルチは人に命令なんてしたことないだろうから、慣れてないのかもしれん。

「……では」

「おう」

 やっと決めたか。
 さて、どんな命令なのやら。

「3番の方が、王様を……」

「お、俺がマルチを……どうするんだっ!?」

「崇め奉るですー」

「……何じゃそりゃ」

「ほえ? だって、王様なんですよね?」

 ……駄目だこりゃ。
 今イチ趣旨がわかってないらしいな。

「駄目駄目、そんなんじゃなくて、もっと普通にしろ」

「じゃ、じゃあ……3番の方は、王様に……」

 俺をじっと見据えながら言うマルチ。

 ……しまった。
 さっき俺が反応したから、俺が3番だってバレてる。

「王様に?」

「とっ……とても愛されてますー」

 がくん。

「な、なぁ……嬉しいんだけどさ、命令っていうのは……」

 ……まぁ、いいか。
 真っ赤な顔して一生懸命言ってくれたんだ。
 せめて、なでなでしておくか。

 なでなでなで。

「な? 『なでなでしろ』とか、『一緒にお風呂に入れ』とかでもいいんだぞ、
この場合」

「はっ、はい……」

 染まった頬を、ぽーっと押さえながら頷くマルチ。
 うーん……可愛いぜ、王様。

「……それでは、2回戦に移りましょうか」

「ああ」






「……俺が王様だな」

「あ、あうう」

「…………」

 さて、と。
 何をやらせようかな。

 そういや3人しかいないから、番号指定なんてあんまり意味ないよな……。

「2番が3番と一緒に、王様を誘惑する」

「……卑怯デス」

「ゆーわく、ですかぁ?」

 ……何か、セリオの目が怖い。
 マルチは何だかわかってないみたいだし。

「……ってのは止めにして、2番が王様にキスする」

 よく考えたら、どう転んでも俺は得しかしないやん。

「……はい」

 おお、2番はセリオかぁ。

 すすすっ……ぽすっ。

 胡座をかいていた俺の膝の上に座り、両腕を首に回して。

「どのくらい……ですか?」

 唇が触れ合う寸前。
 セリオは一瞬動きを止めて、そう聞いた。

「……気が済むまで」

「……では」

 ちゅっ……。

「…………」

「……んっ……ぁんっ」

「あ、ああっ……す、すごいですぅ……」

 水っぽい音を立てつつ、激しく絡み合う俺達の舌。
 『気が済むまで』と言ったものの……妙にやる気になっちまって、まだまだ
終わるつもりはない。

「はっ……ぅんっ……」

 ……そ、そろそろ止めておこうか。
 楽しみは後にも残しておかないと。

「……んはっ……ふぅっ……」

「あ、あうう……王様万歳ですぅ」

 やっとこのゲームの本質がわかってきたようだな、マルチ。

「で……では、次を……」

 ちょっとぽーっとしているセリオ。

「おう」






「……また私が王様ですぅ」

 おお、今度はすごく嬉しそう。
 これは命令が楽しみだぜ。

「んじゃ、命令は?」

「んーと……さっきみたいに、私にもキスしてくださいー」

「……番号で命令しろっての」

 最早王様ゲームでも何でもないやん。

「じゃあ……あうう、浩之さんは何番なのでしょうか……?」

「それは秘密」

 王様ゲーム何だってばよ。
 全く、いくら俺とキスしたいからって……ルールは守らなきゃな。(てれっ)

「ううっ……3番の方が、王様にキスするんですぅ……」

 それでも当てずっぽで言うマルチ。
 残念ながら、俺は2番だったりする。

「おおっ、マルチとセリオの絡みかぁ……これは見物だな」

「……マルチさん」

「あうう、セリオさんだったんですねっ」

 マルチは嬉しそうな顔をして。

 ……嬉しそう?

「……ここでは何ですから、他の部屋に行きましょうか?」

「は、はいっ……」

「あ、あのー……?」

「浩之さんはここで腕立て伏せしていてくださいねっ。王様の命令ですぅ」

 な……何だって?
 お前ら、何でそんなに嬉しそうなわけ?
 お、俺はっ!? 俺じゃなかったのかよ、マルチぃっ!?

「あのさぁ、2人とも……」

「……ルールは守ってくださいネ?」

 ニヤリ。

「あ、ああ……」

 何か俺を相手の時よりも親密そうに、寄り添って居間を出て行く2人。
 2人して見つめ合ってる辺りが何とも寂しさを感じる。

「そ……そんなぁ……」

 とりあえず命令の通り、腕立て伏せを始める俺。
 やがて汗だか何だか混ざったような雫が頬を伝い始め、床に濡染みを作って
いったのであった。






 で……およそ1時間程の間。
 疲弊しきった身体に鞭打ちつつ、それでも意地になって腕立て伏せる俺。

 その時、すでに本気で自分の存在理由を探し始めていた。






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