へなちょこセリオものがたり

その57「日向ぼっこ」








「浩之さん、痛くないですかー?」

「おう、気持ちいいもんだぞ」

 ほじほじほじ……。

 う〜ん……晴れた昼下がり、マルチの膝枕で耳掃除……。
 何て素晴らしいことだろう。

 くるくるくりっ。

 うほを、綿の感触がこそばゆいぜ。

「……っと、それじゃあ反対のお耳を上に向けてくださいー」

 うむ、右耳は終わりか。
 では。

 ごろっ。

「…………」

「あ、あのぅ……お耳を上に向けていただかないと……」

「まぁまぁ」

 すりすり……。

 俺はマルチのふとももに顔を押し付け。
 存分にその感触を堪能してみたりして。

「あっ……そんな、浩之さん……」

「マルチのふとももは気持ちいいなぁ」

 さわさわっ。

「も、もう……駄目ですよ、ちゃんとお耳を掃除させてください」

「ちぇっ、残念だなぁ」

「今は危ないですから、後でゆっくりお願いしますねっ」(ぽ)

「お、おう」






 ほじほじほじ……。

「はい、終わりですー」

 くるくるくりっ。

 マルチはまた、綿の部分でくりくりとやって。

「おっ、さんきゅ」

 身体を起こしつつ、マルチの方を見ると。

「あうう、沢山取れたですよ」

「うをっ、こりゃ多い……久しぶりだったからかなぁ。今度からは、もう少し
こまめにすることにしようか」

「はーい」

 それはそれとして。
 マルチが耳垢を取ったティッシュをゴミ箱に放り、耳かきをテーブルの上に
置いた瞬間を見計らう俺。

「マルチっ!」

 だきっ!

「はっ、はにゃっ!? 浩之さんっ!?」

「なぁなぁ、一緒に日向ぼっこしようぜ」

 居間には気持ちのいい日差しが降り注いでいて。
 マルチに耳掃除してもらってる最中だって、何度眠ってしまいそうになった
ことか。

「あうう、でもお部屋のお掃除が……」

「そんなの後でも出来るじゃん。……それとも、嫌?」

「……ご一緒しますぅ♪」

 ふふふ。






 ……と。
 居間の絨毯の上で、マルチに腕枕をしている俺。
 マルチはほんわかした笑顔で俺にしがみ付いている。

 ふわぁぁぁ……さて、少し眠るか……。












「……浩之さんの耳掃除をすると、『一緒に日向ぼっこ』のご褒美が……?」












「お〜い、マルチぃ〜?」

 変だな、どこ行ったんだろ。
 この前の耳掃除から丁度3日程経ったことだし、そろそろやってもらおうと
思ったのだが。
 ……しっかし、耳掃除ってどれくらい間隔をおいてするもんなんだろうか。

 俺は居間を、風呂場を、トイレをそれぞれ覗いてみたけど。
 そのどこにもマルチはいなくて、とぼとぼと居間に戻って来たら。

「…………」

「……セリオ? 何やってるんだ?」

 日の当たる窓際、セリオが座って耳かきをじっと見つめていて。
 俺に気付くと、少し嬉しそうな顔をして。

「ところで、マルチがどこ行ったか知らないか?」

「……マルチさんはお買い物デス」

 そう言いながら、俺の顔と耳かきとを交互に見始めるセリオ。
 こ、これは……?

「もしかして、セリオが耳かきしてくれるのか?」

「…………」

 こくこくこくっ!

 おおっ、嬉しいねぇ。
 そんじゃ折角だし、頼もうかな?

「悪ぃな。頼むぜ」






 ほじほじほじ……。

「……痛くはないですか、浩之さん?」

 お約束通り、俺に膝枕してくれているセリオ。
 うーむ、マルチとはまた違った感触だぜ。

「ああ、悪くない」

 ……さすがにマルチの方が、慣れているだけあって上手いみたいだ。
 でも、セリオも初めてにしてはなかなか……。

 マルチが初めて耳掃除した時は、それはもう大変だったからなぁ。
 真っ赤な耳垢って、生まれて初めて見たぜ。
 耳かきの先も、反対の綿も真っ赤に染まってなぁ……それはもう大変だった。

「……では、反対側を」

「おーけい」

 ごろん。

 ……と、少し考えながら身体をひねっている俺。

 どうする、いつもみたいにふとももに『すりすり』しておくか?
 いやいや、変に刺激してセリオの機嫌を損ねると地獄を見るぞ。
 だが膝枕してもらった以上、『すりすり』するのは礼儀ではないかっ!?

 …………。
 何かあったら恐いから、普通に反対側向いとこ……。

 ぽふんっ、と。

「…………」

 お? セリオよ、何故にそんな残念そうな顔をしている?

「……では」

 ほじほじほじ……。

 む、むぅ……心なしかさっきよりも手に力がこもってる気がする。
 今日何かセリオを怒らせるようなこと、したっけ……?






 ほじほじっ。

「はい、終了です」

「さ、さんきゅな」

 何かぐりぐりって感じでやられてたから、耳の中が痛いぜ……。
 ううむ、セリオを怒らせたっつー心当たりはないんだけどなぁ。

 しかし『ごりっ』とかやられなくて、本当によかったぜ(冷汗)。

「…………」

「よっ、と」

 俺は軽々と身を起こし。

「ありがとな、セリオ。気持ちよかったぜ」

 ただし、気持ちよかったのは片耳だけだったけど。

「…………」

 何か言いたそうな顔のセリオ。
 俺が傍にしゃがみ込むと、一瞬ぱっと明るくなったけど。
 でも、次の言葉でまた暗く落ち込んで。

「ん? まだ何かあるのか?」

「い、いえ……何でもないデス」

 つい、と勢いよく立ち上がり。
 そのままセリオは居間を出て行ってしまった。

「……何だ? 変な奴だなぁ」

 ……と。
 セリオが落としていった耳かきを拾おうとしたら。
 窓の傍に、枕が2つと毛布が1枚置かれているのが目に入った。






 …………。
 ああ、そうか。

 俺が変にびくびくしてたから、セリオも言い出しにくかったのかな。
 それとも、恥かしくて言えなかったのかな。

 何にしても、これで俺がすることは決まった。
 日が沈むまではたっぷり時間もあることだし……セリオと一緒に、ゆっくり
眠れそうだな。

「おーい、セリオ〜」

 俺は耳かきをテーブルの上に置いて、居間を出る。
 そうと決まれば、一刻も早くセリオの顔が見たくなってきて。

 遠慮しないで言えばいいのにな、セリオの奴。
 全く、時々強引なくせに……こういう時には妙に可愛らしいのな。

「……はい?」

「あのさ、もし暇だったらさ……」

 俺の言葉を聞くうちに、みるみる喜びが広がっていく。
 そんなセリオの手を取って、俺達は居間へ戻るのであった。






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